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金色の回向〖第5話〗
しおりを挟む虹子さんは笑って煙草を丁寧に消し、豊かな髪を纏める簪みたいな物を取った。するりと、長い虹子さんの黒髪が解ける。ふわりと香る高そうなシャンプーの香り。つやつやの長い黒髪が綺麗だと思った。
「きて、領ちゃん」
ようやく降りた『許可』のサイン。腕を軽く広げる虹子さんを、思いのまま抱きしめた。虹子さんが逃げないように後頭部を支えて何度も口づけた。虹子さんの両腕は自然と俺の身体に絡まる。人生初の、深い口づけの心地よさに溶けそうになる。息が速まり、まるで動物のように口づけあった。虹子さんの味は不思議と甘いハニーシロップのように感じた。
カーテンも窓も、開け放たったまま抱き合った。ベッドまで待てず床に虹子さんを押し倒した。こんな山の中、誰も来ない。制服の白いシャツを乱暴に脱いだ。片手で中々外れないベルトにイライラする。同時に誇張している身体が情けなくもある。俺は今、虹子さんが欲しい。彼女の全てに欲情する。虹子さんの身体は、柔らかくて、安心するホットミルクみたいな、いい匂いがした。
二人分の吐息も、声にならない声も、擦れる肌から蒸発する汗も、意味もないお守りのように持っていたスキンを、何回も取り替える羽目になるほど、快感を感じたことも、全部初めてだった。全部、虹子さんが俺に教えた。深い口づけの陶酔感も、心地良い愛撫も、溶けるような快感への落ち方、落とし方。二人で、誰も来ることはない、快楽の森に遭難する。
蝉が鳴いている。空から光の粒が降ってくるように感じだった。まるで金色の光のエコーだ。今まで、うるさくて耳鳴りみたいで苛々したのに、今は耳にこだまする、夏の声だ。夏草の匂い。揺れる風のかたち。湿った土の、青い風。
何回も虹子さんを求めて、達したのにまだ足りなくて、ベッドに身を移し、また口づけを繰り返し、自堕落な身体に任せて虹子さんを抱いた。息をきらせながら、彼女の名前を呼び、肩を行き来させ、眉根に皺を刻み、何度も果てた。満たされた。幸せだった。虹子さんは、少し疲れの色を見せながらも、俺を見て優しい表情を崩さない。行為が終わったあと、虹子さんは俺との時間をリセットするように壁に凭れて、ベッドサイドの灰皿に、煙草の灰を落としながら俺に目を移し、笑う。
初めて触れる女性の身体、虹子さんの身体は最初、ひんやりしていたけれど、段々と俺の体温に同化して行った。溶け合うような幸福感を感じた。
虹子さんの身体は華奢で、乱暴にしたら骨なんか簡単に折れてしまいそうで怖かった。
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