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君ハ巳ノ運命のヒト~ウカノ編~《第2部・完》
ウカノのチカラ⑦
しおりを挟む『こ、この大根の漬け物、私が作ったの。良かったら、食べて』
遠慮がちに、顔を背けウカノにタッパーを差し出される。
綺麗な銀杏切りに切られた大根の醤油漬け。鷹の爪が入っていてご飯が進む。
───────────
「ウカノ」
制服に着替え、偶々玄関先でウカノに会った。
急に話しかけられ、ウカノは僕の瞳をみる。最初は返事に答えるように。
「朝の大根美味しかった。今度また作って欲しいな」
「うん……」
「こっち向いて」
「……ダメだよ」
「そっか……。訓練頑張って」
手を伸ばせば届く距離。きっと今君は、うなだれて哀しく目を潤ませて笑ってる。
だって、振り向いたらその通りだった。
僕は首もとに顔を埋めて、
「君が好きだよ。また倒れたら父さんから力を分けてもらう。何度でも。僕で術を試しても良いよ。だから君も希望を捨てないで」
「ありがとう」
目が合う。力がすっと取られるような感じがした。クラリと眩暈がした。これが『蠱惑術』か。
「行ってきます」
そう言ってウカノに手を振って門を出たあとすぐ、ひどい眩暈と吐き気に襲われ倒れ込むように側溝に朝御飯を吐いた。
涙と鼻水だらけになりながら、ウカノが慣れない包丁で作った大根の漬け物を吐いたことが切なかった。
「ごめんね、ウカノ………」
僕は壁づたいに勝手口から家に忍び込んだ。運良く居た母さんにことの次第を話した。
「まあ、だいぶましになってるわね」
「え?」
「この前、ウカノちゃんの瞳の力であんた死にかけたのよ。コウに力を分けた父さんがあんたの生命力を満タンにするまで丸3日かかった。神の中のトップクラスの父さんがよ?」
うまく頭が回らない。母さんの気を分けてもらう。
母さんの隣の客室を貸してもらう。この事をウカノに言いたくないと、母さんは察してくれたらしい。
「父さんからウカノちゃんの訓練を何をもってしてるか、気になるんでしょ?」
流石母さん。良く解っている。
「で、何が訓練なの?」
「なにもしない日常生活よ」
母さんはサラリと不思議なことを言った。
「ウカノちゃんは、簡単に言えば虐待にあって育ったの。暖かい家が、団欒が必要だった。それと、ウカノちゃんは外見にコンプレックスがあるみたい。あんなに綺麗な子だけど、周りからの洗脳みたいなものね。醜い、しか言われなかったって。打ち破る自信をもたせなきゃね。それと、幼い頃の果たせなかった思い出。コウは白ヘビ姿のウカノちゃんとで、外出してきなさい。学校には上手くお母さんが言っておくから」
『気』はだいぶ回った?ああ、ばれちゃったか。ウカノちゃん、おいで。
蜂蜜生姜湯と貰い物の薄焼き煎餅を持って、ウカノはやって来た。
何となく彼女の声が聞こえる。
見つめちゃ駄目
コウを見ちゃ駄目
「訓練の中で、僕は何回倒れても良い。君の蠱惑術をコントロール出きるなら。それと、散歩にいこう。どうかな。言いづらいけど、人型じゃ蠱惑術が出ちゃうから、白へびさんでいい?」
「うん!ケープつけてっていい?美雨さんと一緒に縫い物してるの。蒼い薔薇を刺繍した可愛いレースをあしらったお出かけ着なの。だめ?」
「勿論!買い食いして、公園でお喋りしよう。店は動物……まあ神様、だね。うるさいから」
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