27 / 30
君ハ龍ノ運命のヒト~ミズチ編~〖第1部・完〗
ミズチとの『ベツリ』⑭
しおりを挟む「美雨……ごめんね。オレは美雨を傷つけていたんだね。もう、美雨の邪魔はしない。少しの間でも、思い出が欲しくて。天から印も、もらった。シレンは終わったって。天へ帰る。もう地上には、美雨の前には現れない。ごめんね。美雨」
ミズチは右目から透明な涙をこぼした。部屋から──私の視界から──立ち去ろうとするミズチを、私は後ろから抱きしめた。
「 ……好きだよ、本当は、ミズチが好きなの。行かないで、行かないで、お願い。天に帰らないで。シレンなんて、あと十二年後でも、二十四年後でもいいじゃない。ミズチは『龍』なんでしょ?一緒にいてよ。私の願いを一つくらい叶えてくれてもいいじゃない。あと、たかがプリンなんて言ってごめん。ミズチはマグカッププリン好きだもんね。いくらでも作ってあげる。グラタンも和風パスタも、カレーうどんも、スコーンも!ちゅるちゅるも!毎日作ってあげる!何でも作ってあげるから!……だから行かないで、傍にいて。……頼まれてたプリン、食べよう?粗熱取れたね。ミズチが熱いものが苦手なのに、意地悪したね。ごめんね……」
夜はふける。プリンを食べさせあった。ミズチと月を見ながら抱きあった。透き通った霧雨が目に浮かぶ。清々しい香りがミズチからした。
***
どんよりとした曇りの日だった。大晦日。辰の刻。
『美雨。美しい雨。いい名前。やっぱり美雨はオレの運命のヒト。美雨の名前のような雨を降らすよ。美しい、雨を』
ミズチは天の印の青い紙を持っていた右手を空に掲げた。空が、曇り空が割れて光が差し込む。
『十二年、待っていて欲しい。もし、オレを愛していてくれるなら、だけど。オレは美雨を愛しているよ。美雨だけ、オレには美雨は運命の相手だ』
***
その年の元日から一週間、金色の霧雨が降り続いた。毎年毎年、元旦の辰の刻に金色の霧雨がこの国に降る。奇跡の雨。専門家は『~~現象ですね』など偉ぶって言っていた。
街が金色に染まる中、私はミズチとの最後の別れの後に倒れ、病院に搬送された。貧血だった。
私は──妊娠していた。誰にも言わなかった。ミズチにも言わなかった。婆様にも言わなかった。『堕ろせ』何て言われたらどうしようかと思ったからだ。私はお腹を撫でながら泣いた。
「この子を殺さないで」
婆様はやさしく微笑んで、
「神様の子だ。そんなことはせん」
と言い、
「神との別れはつらかろうに」
そう言い婆様は、声を潤ませた。
20
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
セイレーン─海を捨てるくらいの恋─(番外編追加しました)
カシューナッツ
恋愛
蒼い月の出ている夜。俺は波打ち際、悠々游ぐあまりにも美しい人魚の男の子に出会った。蜜柑を一緒に食べた。
人魚の彼は言ったんだ『君だけが僕の特別なんだ』と……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

離縁の雨が降りやめば
月ヶ瀬 杏
キャラ文芸
龍の眷属と言われる竜堂家に生まれた葵は、三つのときに美雲神社の一つ目の龍神様の花嫁になった。
これは、龍の眷属である竜堂家が行わなければいけない古くからの習わしで、花嫁が十六で龍神と離縁する。
花嫁が十六歳の誕生日を迎えると、不思議なことに大量の雨が降る。それは龍神が花嫁を現世に戻すために降らせる離縁の雨だと言われていて、雨は三日三晩降り続いたのちに止むのが常だが……。
葵との離縁の雨は降りやまず……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる