君ハ龍ノ運命のヒト~ミズチ編・ウカノ編~【完結】

カシューナッツ

文字の大きさ
上 下
24 / 30
君ハ龍ノ運命のヒト~ミズチ編~〖第1部・完〗

ミズチとの近づく『ベツリ』⑪

しおりを挟む

『美雨、美雨、オレを忘れないで』

『永遠にミズチを忘れない。誓うわ』

『何に誓う?』

『あなたに』

 私がそう言った瞬間、風が舞い上がった。布団と毛布が宙を舞う。ミズチは白の肌襦袢を来た若い凛々しい男の人になる。いつも見てきた美少年の人型より成長し、大人の見目麗しい人型のミズチになった。長い黒髪から甘い匂いがする。

『美雨が好きだ。永遠に、美雨だけだ』

 抱き締める力強い腕が心地よくて、切れ長の瞳にただ見惚れた。
 
 ***

 月は中天を周り、気怠い朝日を連れてくる。朝なんて来なければいい。そう、初めて思った。
  
 ***

 毎日、ミズチとたくさん話したくて、会いたくて急いで走って、学校から帰って大友さんのコロッケを買って帰る日々。雨の日はミズチは少し寂しそうだ。

 縁側でミズチはあの日から成長した、美丈夫の着物姿の人型で枯山水の結界を見ていた。

「お父さんが心配?」

「ちょっと心配。悲しい心がいっぱいだと、お父さんいっぱい泣くからね。人間の世界も、たくさん雨降る、洪水が心配だな」

 ミズチは決まり悪く眉を下げ、私は少し冷ましたプリンを差し出す。

 私はミズチが好きだ。白ヘビちゃんのミズチも好きだ。少年のミズチも。今の素敵な大人のミズチも。

 だから一度は逃げた。恋の泥濘に入っていくのが怖かった。
 

 今、千切れるようなベツリが待っているのは薄々気づいている。


 これはシレンの一環なんだろう。神様に恋した。私が悪い。神様と恋愛なんて、罰当たりな、世間知らずだ。

 好きになる相手が悪かった。叶わないのに。待っているのは千切れるような別れだ。早く忘れなくてはならないことは解っている。でも、無理だ。心にも身体にもミズチがいる。

 思いが話す言葉に詰まり、手元のマグカップを見る。不器用に涙をこらえて、笑いながら、私は話をする。

「私のお気に入りのマグカップだよ。可愛いでしょ。昔、婆様に旅行先で買って貰ったの。可愛い龍がいるの。瞳の印象がミズチににてるから、ミズチにあげる。私のこと忘れないように」

 マグカップには可愛らしい龍のイラスト。子供だましかもしれないけど、私のものが何かミズチのものになる。それだけで、いつか終わると解っているこの恋も、何処か報われる気がした。

 そして、それと同時に、こんなことしか出来ない自分が惨めになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

セイレーン─海を捨てるくらいの恋─(番外編追加しました)

カシューナッツ
恋愛
蒼い月の出ている夜。俺は波打ち際、悠々游ぐあまりにも美しい人魚の男の子に出会った。蜜柑を一緒に食べた。 人魚の彼は言ったんだ『君だけが僕の特別なんだ』と……。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

天使を拾って餌付けした悪魔の話

編端みどり
恋愛
退屈な仕事帰りに、食いしん坊の天使を拾った悪魔の話

辺境伯令嬢は甘い餌付けを拒めない

水上 華
恋愛
次期当主として淑女としての嗜みを勉強中の十二歳、モラヴィア辺境伯令嬢のエリーは、王都で見知らぬ美少年が落とした鍵を拾う。お礼としてとあるレストランに誘われたエリーは、食欲に負けて承諾してしまう。

俺から離れるな〜ボディガードの情愛

ラヴ KAZU
恋愛
まりえは十年前襲われそうになったところを亮に救われる。しかしまりえは事件の記憶がない。亮はまりえに一目惚れをして二度とこんな目に合わせないとまりえのボディーガードになる。まりえは恋愛経験がない。亮との距離感にドキドキが止まらない。はじめてを亮に依頼する。影ながら見守り続けると決心したはずなのに独占欲が目覚めまりえの依頼を受ける。「俺の側にずっといろ、生涯お前を守る」二人の恋の行方はどうなるのか

そこは優しい悪魔の腕の中

真木
恋愛
極道の義兄に引き取られ、守られて育った遥花。檻のような愛情に囲まれていても、彼女は恋をしてしまった。悪いひとたちだけの、恋物語。

処理中です...