上 下
16 / 30
君ハ龍ノ運命のヒト~ミズチ編~〖第1部・完〗

ミズチのお父さん③

しおりを挟む


お父さんのアイの相手は人間の、結核の、命の期限が解らないオジョウサンだったって。




お父さんは、いつも花を持ってハイを病んでいるオジョウサンに、勉強を教えてあげたり、
話し相手になるために、郊外の大きな邸宅にカテイキョウシとして通ってたみたい。

オジョウサンの病気は当時は死の病。
誰も寄り付かない、
オジョウサンは孤独だったってお父さんが言ってた。

お菓子や、珍しい果物も持っていって二人で食べたり、部屋で日光浴をしながらチェスをしたりしたんだって。



ある日、オジョウサンの邸宅に行ってみると、
いつものベッドの布団はなくなって、
テーブルにお父さんが前にあげた花が、
水切りしてあって生けてあったって。

偶々いた顔見知りの看護師さんに、答えは解っているのに訊いたんだって。




オジョウサンは何処に?って。



『お嬢さまは、先生に会ったら言伝てをと。メモにも書いてあります。

《いつも本当にありがとうございました。
寂しい毎日が先生がいてくださり慰められました。先生と過ごす時間が私の生きている時間でした。
先生は私の生き甲斐。私の全てでした。
先生をお慕いしていました。
さようなら。
最後に、先生と過ごした時間は、
私にとっていとしい時間でした。
先生と出会えて良かった》

そう私に先生に伝えて欲しいと。

《先生を見つめて自分から気持ちを言えなかったことが心残りだった》

と、そう伝えてほしいとも頼まれました。お嬢さまは

《幸せでした》

そう息を引き取る前に仰りました。先生、ありがとうございました』

訊いた言葉に瞳から溢れた雫は雲を集め、空からは雨が降った。

お父さんの深い悲しみでオジョウサンの死を悼むようなやさしい金色の霧雨が三日三晩降り続けたんだって。





それから年が明けて、タツの年になった。雨雲から空への光の道標のように雲が裂けて、そこからお父さんは真のタツの姿になって、空へ帰ったんだって。

『やっと会える。あのひとに。先に空へ行ってしまった、あのひとに』



先に天で待ってるオジョウサンにお父さんはアイを告げて、オレが生まれた。お父さんの恋い焦がれた相手は、オレのお母さんなんだ。

お父さんには内緒だよ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

傷つけて、傷つけられて……そうして僕らは、大人になっていく。 ――「本命彼女はモテすぎ注意!」サイドストーリー 佐々木史帆――

玉水ひひな
青春
「本命彼女はモテすぎ注意! ~高嶺に咲いてる僕のキミ~」のサイドストーリー短編です!  ヒロインは同作登場の佐々木史帆(ささきしほ)です。  本編試し読みで彼女の登場シーンは全部出ているので、よろしければ同作試し読みを読んでからお読みください。 《あらすじ》  憧れの「高校生」になった【佐々木史帆】は、彼氏が欲しくて堪まらない。  同じクラスで一番好みのタイプだった【桐生翔真(きりゅうしょうま)】という男子にほのかな憧れを抱き、何とかアプローチを頑張るのだが、彼にはいつしか、「高嶺の花」な本命の彼女ができてしまったようで――!   ---  二万字弱の短編です。お時間のある時に読んでもらえたら嬉しいです!

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】眠り姫は夜を彷徨う

龍野ゆうき
青春
夜を支配する多数のグループが存在する治安の悪い街に、ふらりと現れる『掃除屋』の異名を持つ人物。悪行を阻止するその人物の正体は、実は『夢遊病』を患う少女だった?! 今夜も少女は己の知らぬところで夜な夜な街へと繰り出す。悪を殲滅する為に…

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

坊主女子:学園青春短編集【短編集】

S.H.L
青春
坊主女子の学園もの青春ストーリーを集めた短編集です。

野球部の女の子

S.H.L
青春
中学に入り野球部に入ることを決意した美咲、それと同時に坊主になった。

鮫島さんは否定形で全肯定。

河津田 眞紀
青春
鮫島雷華(さめじまらいか)は、学年一の美少女だ。 しかし、男子生徒から距離を置かれている。 何故なら彼女は、「異性からの言葉を問答無用で否定してしまう呪い」にかかっているから。 高校一年の春、早くも同級生から距離を置かれる雷華と唯一会話できる男子生徒が一人。 他者からの言葉を全て肯定で返してしまう究極のイエスマン・温森海斗(ぬくもりかいと)であった。 海斗と雷華は、とある活動行事で同じグループになる。 雷華の親友・未空(みく)や、不登校気味な女子生徒・翠(すい)と共に発表に向けた準備を進める中で、海斗と雷華は肯定と否定を繰り返しながら徐々に距離を縮めていく。 そして、海斗は知る。雷華の呪いに隠された、驚愕の真実を―― 全否定ヒロインと超絶イエスマン主人公が織りなす、不器用で切ない青春ラブストーリー。

坊主女子:青春恋愛短編集【短編集】

S.H.L
青春
女性が坊主にする恋愛小説を短篇集としてまとめました。

処理中です...