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〖第55話〗
しおりを挟む用意されていたのは中々豪華な朝食だった。いただきます、と二人が言ったら食事の合図だ。
「オムレツとピーナツバターと、フランスパンとシーザーサラダと即席のコーンスープだ。君のようには中々上手くいかないな、さ、食べよう」
ご飯になってくれた食材に感謝し、作ってくれた覚さんに感謝の意を込め、『いただきます』と言った。
「美味しいよ、覚さんのオムレツ。牛乳入れた?」
和やかな、家での朝食。何ヵ月ぶりだろう。食後には、覚さんが紅茶を淹れてくれた。久し振りのアッサムのミルクティーの良い香り。
「覚さん、今、幸せ?」
「ああ。幸せだよ」
「俺も………幸せだよ」
ここが俺の帰る場所。心の底から、泣いて、笑う場所。
「ねぇ、また絵を描いてよ。俺の絵」
「ああ、そうだね。君の絵を描くよ。もう君以外描けない」
毎日覚さんは俺の一瞬をキャンバスに切り取る。そして毎晩ベッドで抱き合う。飽きることなどひとつもない。永遠を願い臆病に、時間を重ね、肌を重ねる。
「綺麗だな、洋之」
俺を描きながら、覚さんは言う。目を細めて、満足そうに。描く、描かれる、二人で完結する作業。たくさん俺の絵を描いて。キャンバスにたくさんの俺を映して。刻んで。
「先にアトリエに行っていてくれ」
覚さんの言葉に、アトリエへ行く。覚さんと俺だけの空間。俺を描いた絵が沢山ある。妖艶にベットに伏せ、艶やかに笑う俺の絵や、少年のような顔で振り向くものまで。不意に絵が並んでいる部屋の端に、古い布が被された絵が一つだけあった。
俺を描いた絵以外は売ったと言っていたのに、と不思議に思い絵に被された古い布を取った。キャンバスの裏に何か書いてある。気になり、埃を手で払う。
『出来るなら、あのアトリエに出来る、午後二時の影になりたかった』───
俺と同じ願いを持つひとがいた。ある絵のキャンバスの裏。描かれていたのは若い頃の父の絵。字は父の筆跡だ。俺は動揺しながらも、絵を戻した。俺はそ知らぬ振りをして、覚さんに訊いた。
「ねえ、覚さん、父さんってどんなひとだった?恋人だったんでしょ?馴れ初めとか……知りたい」
ベッドにうつ伏せになり、顔だけ横を向いて腕を枕にし濃紺色の腰布を纏う。
「珍しいな、君が友次の話をしろだなんて」
このアトリエの天窓には午後の日差しが入る。午後はアトリエの光が特別綺麗だ。
『午後二時の影になりたい───』父のメッセージを覚さんは読んだのだろうか?
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