蝶々の繭

華周夏

文字の大きさ
上 下
48 / 64

〖第48話〗

しおりを挟む

「……あの日、急いで追いかけた。見つけた君は血だらけで、死んでしまうかと思った。輸血に使うO型の血が足りないと言われた。私はAB型だった。君の血が止まらないのに、何もしてあげることができなかった……。君を好きだったよ。私は、君を自分の子供と知ってからも、君を……好きだった。私の勝手で、君への想いを断ち切るためとはいえ、酷いことをしたね。君は私を許せないだろう? 一度消えた想いの『灯火』は……私が無理やり消した想いは、二度と点くことはないよ」

 俺は覚さんにしがみつくように抱きしめて言った。

「俺を、俺をもう一度、覚さんの心の中にいれてよ。恋人らしいことをまだ何もしてない。また、一緒に散歩しよう?寒い日はココアを作って。俺はチーズオムレツを作るから」

「洋之………?」

「良く聴いて、AB型の覚さんからはO型の俺は生まれない!生まれることはできないんだ。深山先生に夏期の補習のご飯の差し入れで先生にあげた豆ご飯を食べながら『メンデルの法則』を教わった!俺と覚さんは、親子じゃない!……もう、一度消えた火はつかない?酷いことたくさん言ったから嫌いになっちゃった?」

 覚さんは、驚きを隠せない様子だった。

「何で正美さんはあんなことを……」
 
 俺は嘲笑った。

「あのひと、プライド高いから一度でも恥かかされたら全力で復讐するよ。しかもゲイ大嫌いだし。俺なんかバイ菌扱い。消毒しなきゃ同じもの使わないから」

「洋之………そんな………」

「俺は家族になんの思い入れもないよ。学費も働いて返したし。取れって言われた資格は取ったし」

「洋之は、家族は嫌いか?」

「興味ない。ただ、覚さんに今回みたいなことはして欲しくない。俺つらかったよ。ルミエが来てから、ううん、段々覚さんが変わっていくのが………うらぶれていく覚さんを見ているしか出来ないのが………俺は蚊帳の外で、何もできないのがつらかった」

 覚さんはうなだれる俺の背に、ぎゅっと腕を回した。

「洋之……ごめんな。もうあんなことはしない。あと、君の帰る場所は、泣く場所も、私にしてくれ。ずっと、一緒にいよう。もう私は、君しか描かない」

 覚さんの言葉は、俺の言おうとする言葉を無意識に涙で震えさせる。嬉しくて。嬉しくて。切なくて、たまらなかった。

「事故で、死ななくて、良かった。生きてて良かった。覚さん。ありがとう。生きてて良かった。今、思ったよ。やっと、思えたよ。覚さん……」
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

新緑の少年

東城
BL
大雨の中、車で帰宅中の主人公は道に倒れている少年を発見する。 家に連れて帰り事情を聞くと、少年は母親を刺したと言う。 警察に連絡し同伴で県警に行くが、少年の身の上話に同情し主人公は少年を一時的に引き取ることに。 悪い子ではなく複雑な家庭環境で追い詰められての犯行だった。 日々の生活の中で交流を深める二人だが、ちょっとしたトラブルに見舞われてしまう。 少年と関わるうちに恋心のような慈愛のような不思議な感情に戸惑う主人公。 少年は主人公に対して、保護者のような気持ちを抱いていた。 ハッピーエンドの物語。

理香は俺のカノジョじゃねえ

中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。

あなたと交わす、未来の約束

由佐さつき
BL
日向秋久は近道をしようと旧校舎の脇を通り、喫煙所へと差し掛かる。人気のないそこはいつも錆びた灰皿だけがぼんやりと佇んでいるだけであったが、今日は様子が違っていた。誰もいないと思っていた其処には、細い体に黒を纏った彼がいた。 日向の通う文学部には、芸能人なんかよりもずっと有名な男がいた。誰であるのかは明らかにされていないが、どの授業にも出ているのだと噂されている。 煙草を挟んだ指は女性的なまでに細く、白く、銀杏色を透かした陽射しが真っ直ぐに染み込んでいた。伏せた睫毛の長さと、白い肌を飾り付ける銀色のアクセサリーが不可思議な彼には酷く似合っていて、日向は視線を外せなかった。 須賀千秋と名乗った彼と言葉を交わし、ひっそりと隣り合っている時間が幸せだった。彼に笑っていてほしい、彼の隣にいたい。その気持ちだけを胸に告げた言葉は、彼に受け入れられることはなかった。 ***** 怖いものは怖い。だけど君となら歩いていけるかもしれない。

【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした

月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。 人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。 高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。 一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。 はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。 次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。 ――僕は、敦貴が好きなんだ。 自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。 エブリスタ様にも掲載しています(完結済) エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位 ◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。 応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。 ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。 『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748

熱のせい

yoyo
BL
体調不良で漏らしてしまう、サラリーマンカップルの話です。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

処理中です...