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〖第48話〗
しおりを挟む「……あの日、急いで追いかけた。見つけた君は血だらけで、死んでしまうかと思った。輸血に使うO型の血が足りないと言われた。私はAB型だった。君の血が止まらないのに、何もしてあげることができなかった……。君を好きだったよ。私は、君を自分の子供と知ってからも、君を……好きだった。私の勝手で、君への想いを断ち切るためとはいえ、酷いことをしたね。君は私を許せないだろう? 一度消えた想いの『灯火』は……私が無理やり消した想いは、二度と点くことはないよ」
俺は覚さんにしがみつくように抱きしめて言った。
「俺を、俺をもう一度、覚さんの心の中にいれてよ。恋人らしいことをまだ何もしてない。また、一緒に散歩しよう?寒い日はココアを作って。俺はチーズオムレツを作るから」
「洋之………?」
「良く聴いて、AB型の覚さんからはO型の俺は生まれない!生まれることはできないんだ。深山先生に夏期の補習のご飯の差し入れで先生にあげた豆ご飯を食べながら『メンデルの法則』を教わった!俺と覚さんは、親子じゃない!……もう、一度消えた火はつかない?酷いことたくさん言ったから嫌いになっちゃった?」
覚さんは、驚きを隠せない様子だった。
「何で正美さんはあんなことを……」
俺は嘲笑った。
「あのひと、プライド高いから一度でも恥かかされたら全力で復讐するよ。しかもゲイ大嫌いだし。俺なんかバイ菌扱い。消毒しなきゃ同じもの使わないから」
「洋之………そんな………」
「俺は家族になんの思い入れもないよ。学費も働いて返したし。取れって言われた資格は取ったし」
「洋之は、家族は嫌いか?」
「興味ない。ただ、覚さんに今回みたいなことはして欲しくない。俺つらかったよ。ルミエが来てから、ううん、段々覚さんが変わっていくのが………うらぶれていく覚さんを見ているしか出来ないのが………俺は蚊帳の外で、何もできないのがつらかった」
覚さんはうなだれる俺の背に、ぎゅっと腕を回した。
「洋之……ごめんな。もうあんなことはしない。あと、君の帰る場所は、泣く場所も、私にしてくれ。ずっと、一緒にいよう。もう私は、君しか描かない」
覚さんの言葉は、俺の言おうとする言葉を無意識に涙で震えさせる。嬉しくて。嬉しくて。切なくて、たまらなかった。
「事故で、死ななくて、良かった。生きてて良かった。覚さん。ありがとう。生きてて良かった。今、思ったよ。やっと、思えたよ。覚さん……」
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