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〖第46話〗
しおりを挟む「ありがとうございます。感謝します」
そう抑揚のない声で言ったら。
「いいんだよ………気にすることなんかないんだよ」
そう、苦しそうに笑っていた。個室になると、病院側の完全介護になると付き添いは断られたが、覚さんは、毎日花を持って朝早く来ては面会時間が終わるまで、スケッチブックに絵を描いていた。
「君を書いてるんだ。すまない。こんなことしか出来ない」
絵は花にちなんだ俺の絵。描き途中の絵を少し見せてくれた。でも、俺は全然嬉しくなかった。笑うことも苦しい。笑顔がひきつって上手く笑えない。
先生が亡くなってから、もう本気で恋はしないと思っていた。彼氏は作った。色んな相手と寝た。ご面相だけは父と母に感謝だ。好意を持ってくれる相手はたくさんいた。けれど、心の奥が拒否をする。踏み入れて欲しくない領域がある。本気でひとを想うことが怖い。失うのも怖い。だが俺はもう一度、本気でひとを好きになった……覚さん。でも、彼も失った。生きているけど、いない。
本当に好きだったけれど、あのひとは柔らかな、俺の心の中を切り刻んだ。あまりにも残酷な『父親』という事実を俺に告げる前に、俺を追い出すことは可能だった。俺に直接言えば良い。
『興味がなくなった』
それだけで十分だった。ルミエの存在もいらない。覚さんは、自分が傷つくのが嫌だったんだろうと思った。今の俺に覚さんは不信感しかない。それでも覚さんは毎日甲斐甲斐しく、無理に笑いながら来る。
「お花きれいだろう? ここに生けるね」
「病院の食事だけじゃお腹すくよね」
「今日も洋之を見ながら絵を描いていいかな」
一ヶ月経ち、張りつめた感情の糸が切れた。冷静にものの判断できるようになってからも、覚さんから、まともに話を聞いていない。
「善意の押し売りなんて要らないんだよ! 違ったな、あんたのは罪悪感の押し売りだ!出てけ!出てけ!出てけ!二度と来んな!家に帰ったらルミエを描いて、寝るくせに!今さら父親面してんじゃねぇよ! あんたは何もくれなかった!恋人にもしてくれなかった!甘えさせてもくれなかった!あんたは与えるようで全部全部、奪ってく!」
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