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〖第44話〗
しおりを挟む朝なのに雨雲は厚くて夕方みたいだった。夕方になればみんな何処かへ帰る。みんな何処へ帰るんだろう。俺に帰るところはない。解らない。風が冷たく身体が冷えて仕方なかったのも、段々感じなくなった。
足が痛い。そう言えば靴を履いてない。裸足だ。目の前に光が見えた。車のヘッドライトが優しく包む光に見えた。俺は光に手を伸ばす。体に激しい痛みが走った。けれど何故かしあわせだった。
『やっと終わる』
よく解らないけれど、それが俺の答えだった。
──────────
目を開けると泣きすぎて目蓋が腫れた覚さんの顔があった。ここは何処だろう。消毒薬の匂い、鈍い痛みのある左足、白い、知らない天井からすると病院。何でここにいるんだろう。それは終わらせられなかったから。覚さんは何で泣いているんだろうか。何でそんなつらそうな顔しているんだろうか。ああ、父親だからか。逃れられない義務感と罪悪感か。
俺は笑った。声を出し気が触れたように大声で笑った。もう、どうでもいい。全部、どうでもいい。窓から街の灯が見える。みんな帰る家の電灯がついている。みんな帰るところがある。
「気が、ついたか?洋之」
俺の顔から笑みが消えていく。
「……死なせて………」
仰向けに寝かせられた病院のベッドの上で俺は、ただ涙がとまらなかった。眦から、こめかみに涙が伝って落ちて、髪に染みていく。
「洋之、そんなこと言うな。お願いだから」
「先生と、蝶を取りに行きたかった。救急車呼んだの覚さん?」
そうだという風に、覚さんは頷く。
「最後まで余計なことするんだね。さっさと帰ってルミエと寝れば?邪魔な息子で、使えないモデルも、まともに家事もできない家政夫もいないんだから!」
大声で泣きわめくと看護師が飛んできて点滴に何かを注射した。頭が霞がかかるようにぼやける。覚さんは、点滴に繋がれた手をやさしく握った。
「………ルミエは君の代わりだ。抱きしめて、口づけて……君と人としての一線を越えたくなかった。君をこれ以上好きになるのが怖かった。それに、君を冷たく扱えば、君は私に興味を失うと思った、失って欲しかった。許されない………ことだから」
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