蝶々の繭

華周夏

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〖第36話〗

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「俺、この蝶好きだな──俺さ、先生も好きだよ」

 ありがとう、嬉しいよ。そう言い先生は、意味を理解していない告白に、嬉しそうだ。それでいい。先生は、一生徒として俺を扱う。それでも上機嫌で照れくさそうに、はにかんでいた。

 俺は三週間の補習を終わっても、しばらくと先生と、蝶の話、だけじゃない話を訊きに通った。先生は、

「家に居ても暇だからね」

 家より涼しいしと思って言い学校に来るという。クーラーが壊れているんだと言っていた。けれど、先生が繋いだ言葉は何より俺を喜ばせた。

『本当は、早瀬君が来てくれるんじゃないかなって思ってね。僕も早瀬君が好きだよ。君は話がとても上手だ。早瀬君と話すのは愉しい』

 恋の話……初恋の話をした。俺は秘密と言い誤魔化した。高一だった先生は学校の図書室で見たひとに一目惚れした。もう一度会いたくて通ったけど二度と会うことはなかったっていう話とか、

 好きなもの……お弁当に入っていたら嬉しいものは、俺が作るタコさんウインナーと豆ご飯だとか、そして生まれ変わりがあったら何になりたいかとか、話した。

 先生は蝶だと紙パックのカフェオレを飲みながら言っていた。

 先生に会いたくて、八月中旬、先生がお盆休みに入るまで、夏休みの間ずっと俺は化学準備室に通った。

 もちろん麦茶と一緒にお弁当を持っていった。好きだと言ったカフェオレも。その度に先生はまるく微笑んで、

『いらっしゃい、早瀬くん。お弁当、いつもごめんね。でもありがとう』

 と言った。帰るときにも

『またね、早瀬くん』

 と。やはりまるく、やさしく微笑んで。
 
 
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