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〖第30話〗
しおりを挟む『生まれた時から、君を知っているよ』
そう、言っていたことを思い出す。本当は、『生まれる前から』が正しいんだね。
覚さんに問いかけたくなる。自分のしあわせを蝕むように生まれた俺が、本当は憎いんでしょう?やさしくなんかしたくないんでしょう?やさしくするのは復讐ですか?それともかつて愛した父の影を俺に見ましたか?
「覚さん、本当は俺のことが憎いんじゃないの?」
嘲笑したつもりなのに頬に涙が伝う。
「覚さんのしあわせを蝕むように生まれた俺が、憎いんでしょう?」
声が、震えた。視界が滲んでいく。俺は……もう覚さんに好きになってもらえない。俺は、ずっと覚さんの影を追いかけるだけ。
『きっと私は君を好きになる気がするよ』
覚さんはそう言ったけど、好きになったのは俺の方だった。叶わないことは解っていた。
「──もう、過去のことだ。忘れたよ。気にしてない。ずっとその事を考えていたのか?」
「俺がいなかったら、覚さんは幸せになれた。俺、知ってるよ。たまに寂しそうに俺を見てたの、知ってるよ! 俺に親父を重ねて見てたの、知ってるよ!」
「──確かに最初は君に友次を重ねていた。でも今は、君はいたいけな仔犬か仔猫のようで、目が離せない。私は見つからないように君を見ていたよ。それに君は、自分がいなかったらというが、どちらにしろ、友次との恋愛の終わりが早まっただけだ。友次には恨みも、未練もない。過去だ。終わったことだよ。泣かないでくれ。君が泣くと、私もつらい」
覚さんは続けた。指を掴んで「痩せてしまったな……」と悲しそうに言った。
「全く君は何処か抜けている。私と友次との関係が続き、友次が正美さんと関係を持たなかったら、私と君は会えなくなってしまうよ。それでも君は、私と友次のしあわせを考えたんだね。洋之、過去は変えられない。そして今がある。私は君に会えて嬉しいよ」
覚さんは、俺を懐にいれて俺の髪を撫でた。安心しながら心拍はどんどん上がる。
「傍に置いて。モデルも、家事も、頑張るから。お願い、俺、一生覚さんに許してもらえない存在なんだって、憎しみの対象なんだって、必要無いんだって思ってた」
覚さんは苦笑し、俺の髪を撫でた。
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