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〖第26話〗
しおりを挟む一定時間ごとに目が覚める。覚さんは、嘘はつかないと、自分に言い聞かせる。好きのカテゴリーにペンで入れてくれて微笑ってくれた。
あの笑顔を思い出そうとする。けれど、一度、はみ出た不安は消えない。
深夜、真っ暗なリビングのソファで暗闇を見つめる。見えるものなんか何もないのに。部屋はあまりにも独りがさみしくて、居たくなかった。それにリビングは覚さんの生活の気配がする。
「覚さん………」
呼んでも答えてくれない相手を呼ぶなんて馬鹿みたいだ。不様な泣き顔は夜が全部隠してくれる。両手で顔を覆い、涙をポロポロこぼして肩を震わせると、すぐ横の小さいソファの横のライトスタンドがカチャリと音を立てた。
うたた寝していたのか、少し眠そうな覚さんが心配そうな顔で俺を見つめて居た。驚いて顔をあげる。ぼろぼろに泣き張らした顔を見られたくなかった。
「どうした? 洋之。大丈夫か? 何かあったのか?」
「何でもないです。何でもないから!見ないで、見ないで!」
綺麗なハンカチを持って差し伸べられた手を、俺は咄嗟に手ではねつけた。ハンカチは、覚さんの手から滑るように落ちた。
覚さんは、傷ついた顔をして、ハンカチを拾い、しばらく黙った。ハンカチを拾い困ったように笑う顔なんて見たくなかった。
「………暖かくするんだよ。おやすみ」
無理に微笑んだような笑顔。こんな顔をさせたいわけじゃなかった。そして、日々の暮らしの覚さんの笑顔もやさしさも、全部本当だった。ずっと、ひとりで作り出した虚構の覚さんに嫌われていることを、否定されることを怖れていた。
消えてしまう。そう思い怖くなった。今まで築いてきたものすべて。覚さんを好きだったという綺麗な思い出さえ翳る。階段へ向かう覚さんに後ろからしがみつくように抱きしめた。柱時計が時を刻んだ。夜が更けていく。時計は一度だけ鳴った。覚さんは『一時か』と呟いた。
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