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〖第22話〗
しおりを挟む珈琲は眠気覚まし。お酒はもらうだけ。あまり飲まないので知り合いにあげてしまうという。砂糖もミルクも入れない、ミルから挽いた豆からの熱いブラックの珈琲を啜る姿を見つめる。
「一緒に食べよう。一緒に『いただきます』をしようか」
俺は小さく頷き、カトラリーを上手に使い朝食を済ませる。覚さんは、レーズン等のドライフルーツが入っているハード系のパンか、フランスパンが好きだ。
「洋之のチーズオムレツを食べたら他でオムレツは食べられないな」
「そう言われると、嬉しいけど、本当?」
「ああ、とても美味しい。他の料理も。少し前は目玉焼きも焦がしてたのに」
「あ、あれは考え事をしていて………真っ黒に。いいじゃないですか、焦げた玉子は責任もって俺が食べましたし!」
覚さんは「悪かった。冗談だよ」と言いながら、悪びれもせず愉しそうに笑っていた。ダイニングテーブルに並べられたいつもの料理。
俺は思春期の子供みたいに、覚さんの好きなものを訊く。穏やかな微笑みで、覚さんは答えてくれる。
好きなひとの情報が入ってくる。頭の中に書き込む。覚さんは、果物以外メニューをあまり変えることはない。
リクエストは、中がとろとろのチーズの入ったオムレツと、ちょっと高価なオリーブオイルで作ったドレッシングを使ったサラダ、具だくさんの野菜のコンソメスープ。季節の果物。
果物では覚さんは葡萄が好きだ。キャンベルと言う、少し古い品種の葡萄が好きらしい。俺も朝食を一緒に食べるが、この葡萄は味が濃くて美味しい。
「美味しいな、洋之。いつもありがとう」
好きなひとの笑顔を、頭の中に記録する。早く諦めないと、そう思いつつ、あのひとを目で追っている。
誰かを好きになることは、叶わない思いを抱くことは、こんなに切ない気持ちになるものだったんだと痛感する。
久しぶりの、十年ぶりの恋もつらい。そんなことを考えながら、ホカホカのチーズオムレツを食べて笑う。珈琲を飲んで覚さんの目を見て、目蓋を伏せた。
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