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〖第10話〗
しおりを挟むそう言うと、その人はラムレーズンアイスクリームに、
「いただきます」
と丁寧に手を合わせた。俺も、つられて
「いただきます」
と手を合わせた。既視感に包まれ、洋之は、どうして手を合わせるのかを、その男の人に素直に訊いた。
「感謝の気持ちを忘れないように、かな」
「感謝?誰かの手を経て、そしていのちを貰って生きていることを忘れないようにって言われたこと、ある……」
あのひとは俺が作った豆ごはんを食べて、嬉しそうに笑ってた。
美味しい、しあわせだなって。ありがとうって。あのご飯があのひととの最後の食事だった。
料理がもっと上手くなりたいとトメさんから特訓を受けた。抹茶のアイスクリームの緑色と、えんどう豆の緑色が被るように映って切なくなる。
一緒に、俺が作ったお弁当、食べて欲しかった。
「私はラムレーズンが好きだ。それぞれ一個だったから、友次がいなくてよかった。あいつもラムレーズンが好きだからね。取り合いになる。しかも喧嘩になるとすぐ駄々を捏ねて、ぐずればどうにかなると思っていたからな。全くタチが悪い。まあ、結婚前の話だから時効か」
あの父が。自分が知る父とあまりにも違いすぎて、思わず吹き出しそうになりながら、笑ってしまった。
緊張が一気にほぐれた。気遣い上手な男の人は「食べて」と促すような仕草をし、男の人自身も、アイススプーンを運ぶ。
俺は「美味しい」と、綺麗なスプーンで、普段の俺には買えない小さな外国物のアイス─実家の冷蔵庫には普通に入っている─アイスクリームを久々に食べた。高校二年にカミングアウトしてからこのアイスは食べてなかった。
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