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〖第8話〗
しおりを挟む久し振りの、父と二人きりのドライブだった。ただ昔と違い、車の中は始終無言だった。行き先も解らない。
朝、無理やり叩き起こされ、空のスーツケースと大きめの、趣味の良い嫌味な鞄を渡され、その「鞄に当面の服を詰めろ」と、何処に連れていかれるのか解らないまま、朝食代わりにとの父の配慮か、エナジードリンクをポンっと手渡された。
「何処に行くの」
寝ぼけた頭で父に訊くと、
「親戚の家だ。正美が旅行から帰ってこないうちに行った方がいいだろう。色々うるさいからな」
交わした会話はそれだけだった。山の緑が眩しくて瑞々しい。うねる道の先には開けた高原にある大きな屋敷があった。洋館といった方がいい。
洒落た小さな高級オーベルジュみたいだ。屋敷の前で、父は俺に荷物を持って降りるように言い、父自身は離れたところで、父より年齢が少し上くらいの、やさしい低めの声をした四十代後半くらいの男のひとと話し込んでいる。
「あとは、お願いします」
そう言うと、俺を知らない大きな屋敷の前に置き去りにして、父の車は遠ざかっていった。
思わず、走って父の車を追いかけた。緑の生い茂るカーブで見えなくなるのはすぐだった。
父さんとドライブなんて、と苦々しく思っていた行き先が、知らない親戚の家。いつも、俺はこうだ。怒りと悲しみで食いしばる顎が痛い。俺は父にも捨てられた。
「ちゃんと、縁談はきちんと礼儀正しく断ったじゃないか!どうして、俺を置いていくんだよ!俺の何が気に入らないんだよ!」
俺が早瀬の家に要らないからだと気づくまで時間はかからなかった。
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