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〖第6話〗
しおりを挟む俺の住むボロアパートに帰るまで、貴明の思い出を反芻する。抱きあった後、俺の眠る額に口づける癖が好きだった。
子供のように、後ろからしがみついて、俺の首筋に顔を埋めながら寝る癖も。ただ、別れ際「好きだった」なんて、言わないで欲しかった。その類の親切は、残酷だ。無駄に未練が残る。
そう思いながら自分自身、俺には貴明を責める資格はないことは解っていた。貴明は、初めて本当に好きになったひとに似ていた。
どうしようもなく、やるせない感情に溺れるほど、過ごした時間がいとしくて忘れたくないと思うひとに出会ったのは、あのひとが初めてだった。
あの村を出るまで、恋愛はすべて、気づかれないように視線を送ることだけの想い方しかしてこなかった。
当の昔に、自分はいわゆる同性愛者だと解っていた。そしてそれは、あの村では禁忌で、誰にも気づかれてはいけないということも解っていた。
それでもひとは誰かを想う。だから、俺の気持ちは、すべて『無い』ことだ。
振り向かないで欲しいと思いながら、後ろ姿を見詰めたりした。俺を呼ぶ声に胸を高鳴らせたことも、回し飲みした烏龍茶に子供みたいに緊張したことも。
全部、全部、存在してはいけない感情だと解っていた。だから、昇華させてきた。恋の始まりも、恋の終わりも、恋の痛みも、想いの熱量で焼き尽くした。
忘れよう。すべて『無かった』ことだ。忘れることは得意だ。想いはいつの間にか、パチパチと火の粉を立て、昇華して、消える。
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