4 / 64
〖第4話〗
しおりを挟む大学も卒業し、あの家ともほとんど縁が切れた。悠々と大学時代と変わらず歓楽街の男にも女性にもモテるバーテンダーを演じてきた。
けれど今年、少し前に父から珍しく電話がかかってきた。内容は『見合いをして欲しい』とのことだった。『今年も盆になっても帰ってこないんだろう? 断って構わない。あくまで体面だ。頼む』と言われたので仕方なく折れた。臭いものには蓋をする。ゲイの俺はあの家では臭いもので、早瀬家の恥になる。けれど、端から見たら、俺はあの家の長男で結婚適齢期の男だ。
「お盆に、実家から縁談がきてさ。まあ、一緒に飯食ってくるだけでいいって言うし。勿論、断ってくるよ。だから、いつも一日休みのところ三日貰えないかな。店長、お願い」
このバーの店長、兼恋人の貴明に休みをもらいたいと、話をした。
「あー、あのさ、話しにくい話、なんだけどさ」
貴明は、女の子と俺に二股をかけていたことを後頭部を掻きながら笑って話し始めた。
「セックスはお前がいいけど、一緒にいて落ち着いて安らぐのは優香ちゃんなんだよな。それに優香ちゃんに、俺がバイで、しかも職場に浮気してるお前のことばれちゃってさあ」
貴明はこっちを見ながら、困ったようにヘラヘラして俺の言葉を待っている。俺が浮気相手って言うことは、俺はいらない。本当に好きな相手ではないということだ。
「それで? この店、辞めろって? 貴明と別れて、その女が此処で俺の仕事するのかよ。結局あんたも俺を必要としないんだな。結局、俺を選ばない。ずっと一緒に居ようなって約束したのに!」
もうあんな風に誰かを見送るのは嫌だ。ずっと、一緒に年を重ねて、あのひとと蝶々を追いかけていたかった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
あなたと交わす、未来の約束
由佐さつき
BL
日向秋久は近道をしようと旧校舎の脇を通り、喫煙所へと差し掛かる。人気のないそこはいつも錆びた灰皿だけがぼんやりと佇んでいるだけであったが、今日は様子が違っていた。誰もいないと思っていた其処には、細い体に黒を纏った彼がいた。
日向の通う文学部には、芸能人なんかよりもずっと有名な男がいた。誰であるのかは明らかにされていないが、どの授業にも出ているのだと噂されている。
煙草を挟んだ指は女性的なまでに細く、白く、銀杏色を透かした陽射しが真っ直ぐに染み込んでいた。伏せた睫毛の長さと、白い肌を飾り付ける銀色のアクセサリーが不可思議な彼には酷く似合っていて、日向は視線を外せなかった。
須賀千秋と名乗った彼と言葉を交わし、ひっそりと隣り合っている時間が幸せだった。彼に笑っていてほしい、彼の隣にいたい。その気持ちだけを胸に告げた言葉は、彼に受け入れられることはなかった。
*****
怖いものは怖い。だけど君となら歩いていけるかもしれない。
新緑の少年
東城
BL
大雨の中、車で帰宅中の主人公は道に倒れている少年を発見する。
家に連れて帰り事情を聞くと、少年は母親を刺したと言う。
警察に連絡し同伴で県警に行くが、少年の身の上話に同情し主人公は少年を一時的に引き取ることに。
悪い子ではなく複雑な家庭環境で追い詰められての犯行だった。
日々の生活の中で交流を深める二人だが、ちょっとしたトラブルに見舞われてしまう。
少年と関わるうちに恋心のような慈愛のような不思議な感情に戸惑う主人公。
少年は主人公に対して、保護者のような気持ちを抱いていた。
ハッピーエンドの物語。
【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした
月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。
人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。
高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。
一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。
はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。
次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。
――僕は、敦貴が好きなんだ。
自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。
エブリスタ様にも掲載しています(完結済)
エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位
◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。
応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。
ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。
『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』
https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748
理香は俺のカノジョじゃねえ
中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。
うちの鬼上司が僕だけに甘い理由(わけ)
みづき
BL
匠が勤める建築デザイン事務所には、洗練された見た目と完璧な仕事で社員誰もが憧れる一流デザイナーの克彦がいる。しかしとにかく仕事に厳しい姿に、陰で『鬼上司』と呼ばれていた。
そんな克彦が家に帰ると甘く変わることを知っているのは、同棲している恋人の匠だけだった。
けれどこの関係の始まりはお互いに惹かれ合って始めたものではない。
始めは甘やかされることが嬉しかったが、次第に自分の気持ちも克彦の気持ちも分からなくなり、この関係に不安を感じるようになる匠だが――
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる