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〖13〗二人の出合い②
しおりを挟む「お姉ちゃん、いたいよぉ。足が取れちゃうよぉ」
「大丈夫。必ず助けるから。お姉ちゃん嘘ついたことあった?」
今夜は満月。まだ月は昇りません。人間に見つからないうちに、私がひとのかたちをとれれば、弟は助かる。弟はまだ幼い仔兎で、まともに変化はできません。満月が先か、ひとに殺められるか。全ては運次第です。その時でした。遠くに見えた狼の群れ。
「お姉ちゃん!狼がきたよ!僕を置いて逃げて!」
「出来るわけないでしょう!………一緒に食べられましょう?お姉ちゃんは、ずっと雪と一緒だから」
先頭に現れた狼は真っ白な狼でした。この山の神様のもう一体の眷属は白い狼と聴いた記憶はありましたが、見るのは初めてでした。仲間を引き連れ近づいてきます。
弟は小さな身体を丸くするほど毛を逆立て威嚇しています。私は丁寧に言いました。
「白い、狼さま。食べるなら私を食べて下さい。だからお願いします、弟だけは、弟だけは………助けてください。どうか、食べないで、弟だけは、食べないで………」
私は半泣きになって白い狼に縋りました。狼は立ちはだかるようにして弟を守る私に、一言、
「どきなさい」
と低く言いました。恐怖に身がすくみ、私は動けませんでした。白い狼が弟に近づきます。
───ガシャンッ
「罠はとれた。これから気をつけることだな」
「あの、お名前は、何と?」
「白霜。君は?」
「華です。弟は雪と。お礼は何を?」
「……あなたは、山の神様の眷族か?ひとに変化できるのか?」
「はい。弟はまだですが」
「では、夜、共に弟君の怪我の手当てに必要なものを買いにいかないか」
私は二つ返事で白霜さまと街にくり出しました。待ち合わせ場所は山の者なら皆知る、桜の大木。初めて行く街は明るく珍しいものばかり。たくさん話をし、笑いました。白霜さまはとても話が上手で、狼がこんなに優しい目をしているとは知りませんでした。
「これで充分だな、弟君を大事になされよ」
「ええ。まだ上手くひとの形をとれなくて。まだ仔兎ですから」
「………あなたは、澄んだ目をしている。また、会いたい。次の満月の日、また今日待ち合わせをしたい。あの桜の木の下で待っていてもいいか?街にいかなくても、会いたい。弟君も一緒に。変化はコツさえ掴めれば簡単なのだよ」
笑いながら、買ってきた薬や包帯で、白霜さまは雪に的確に手当てをしてくれました。
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