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〖10〗貴方の中で生きる
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──華の思い──【過去】
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『眷属の誇りを忘れてはいけませんよ。山の神様が見ていてくださる』
そう母は言っていました。いかなるときも。山の神様は見てらっしゃる。私は理不尽だと思いました。目の前で、囮となって私達と仲間を守った父は笑う人間の群れに長い真っ白な耳を掴まれ、生き絶え私達を見て、微笑みました。
父を見て幼い私は、解りました。『死』と『生』を父は微笑みで私に教えました。
死は怖くありません。ですが、吹雪のように凍てつく強さを、春に咲く蒲公英のように暖かな貴方を置いて逝くのはあまりにも私は哀しいのです。やはり貴方は可愛い方。優しくて。愛しい。この身を捧げていいと、自らの命を手放してもいいと思える方。
私は貴方の身体の中で貴方の命が尽きるまで生き続けることが出来るのです。先ほどの通り、貴方の目となり、二人待ち望んだ春の桜を見つめ、私の好きな春の匂いと、貴方の好きな桜の花から馨る少し甘酸っぱいような匂い。私は貴方の一部となって、私は貴方との永遠を手に入れる。きっと、最後は、そう。きっと、そう。ずっとそう思ってきました。
……………………………………………………
──華の想い──【今】
……………………………………………………
「華!林檎だ!食べろ!留守の家に忍び込んできた。追手も撒いた。大丈夫だ」
「林檎、林檎………嬉しい………ごめんなさい、白霜さま。貴方だってお腹が空いているのに………はしたなく、申し訳ございません」
「謝るな。君は気にしすぎだ。満月を待とう。人間に変化して食物を分けて貰おう」
「この洞穴は寒いですね。早く、雨風がやめば」
外は暴風雨です。いえ、雨と言うより雪に近い。そんなとき、貴方は何か物音を聞きつけたようでした。人間の臭いがしました。鼻をひくひく動かせば私にも解ります。
幸い猟犬の気配はありません。年老いた猟師のようでした──もはやこれまで──私はそう思いました。
──華の思い──【過去】
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『眷属の誇りを忘れてはいけませんよ。山の神様が見ていてくださる』
そう母は言っていました。いかなるときも。山の神様は見てらっしゃる。私は理不尽だと思いました。目の前で、囮となって私達と仲間を守った父は笑う人間の群れに長い真っ白な耳を掴まれ、生き絶え私達を見て、微笑みました。
父を見て幼い私は、解りました。『死』と『生』を父は微笑みで私に教えました。
死は怖くありません。ですが、吹雪のように凍てつく強さを、春に咲く蒲公英のように暖かな貴方を置いて逝くのはあまりにも私は哀しいのです。やはり貴方は可愛い方。優しくて。愛しい。この身を捧げていいと、自らの命を手放してもいいと思える方。
私は貴方の身体の中で貴方の命が尽きるまで生き続けることが出来るのです。先ほどの通り、貴方の目となり、二人待ち望んだ春の桜を見つめ、私の好きな春の匂いと、貴方の好きな桜の花から馨る少し甘酸っぱいような匂い。私は貴方の一部となって、私は貴方との永遠を手に入れる。きっと、最後は、そう。きっと、そう。ずっとそう思ってきました。
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──華の想い──【今】
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「華!林檎だ!食べろ!留守の家に忍び込んできた。追手も撒いた。大丈夫だ」
「林檎、林檎………嬉しい………ごめんなさい、白霜さま。貴方だってお腹が空いているのに………はしたなく、申し訳ございません」
「謝るな。君は気にしすぎだ。満月を待とう。人間に変化して食物を分けて貰おう」
「この洞穴は寒いですね。早く、雨風がやめば」
外は暴風雨です。いえ、雨と言うより雪に近い。そんなとき、貴方は何か物音を聞きつけたようでした。人間の臭いがしました。鼻をひくひく動かせば私にも解ります。
幸い猟犬の気配はありません。年老いた猟師のようでした──もはやこれまで──私はそう思いました。
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