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〖第43話〗
しおりを挟む「そうだね。雪、ずっと一緒にいられるね。ずっと一緒だ」
正一と旅に出る。ずっと一緒に『終わり』を探しに。二人で一緒に永遠を終わらせるために。
───────────────
それからいくつの時を重ねただろう。俺は本来の旅の理由を忘れそうになっていた。いつも正一が傍にいた。やさしくいつも俺の名前を呼んでくれる。それだけで幸せだった。
たくさん海を見た。二人で見た。初めて海を見たとき、波の音が思ったよりもずっと大きくて、俺はとても驚いた。水面にきらきらと網をかけたような光が絡んで目を奪われる。
「海、きれい。俺、好き」
俺が裸足で手を広げて砂浜を駆けて波打ち際に行くと、正一は後ろから俺を抱きとめた。
「消えてしまいそうで、怖い。波にさらわれてしまいそうだ」
正一は言った。
「消えたりしないよ。ずっと、ずっと一緒でしょ?」
俺は笑う。『終わり』を探す旅なのに、俺は泪の石が見つからないで欲しいと、このまま正一と居たいと、波と戯れながら思う。
───────────────
ずっと、ずっと、終わりがないこと。それは俺には不幸なのか、幸福なのか解らない。ただ、正一がいればいい。
やさしい声で「雪」と呼ぶ声。頬を撫でるひやっとする手。抱きしめてくれるいい匂いがする胸と腕。正一だから、意味があるもの。正一だから、癒される。幸せになれる。
────────
時代はどんどん過ぎる。いくつもの時間を越えてきた。生きにくい時代、苦しい時代もあったけれど、生き抜いた。
正一に疲れの色が見えた時は俺の力を分けてあげた。果てのない、旅をしていても二人の旅は楽しかった。俺と正一は年を取れないから、ひとつ処に落ち着けなかった。
最終的には、昔住んでいた家を買い取り、正一は絵を描くことを生業とした。今となっては家自体が文化財と呼ばれる古い家だ。
正一は好んで俺の姿を描いた。絵には必ず俺の名前の落款を押してくれた。
柿は古木になっていたので旅の間も近くに寄る度に力を分けたり、接ぎ木をしたりした。種から育てた柿の子供は生意気で可愛らしかった。俺は昔の家に落ち着いてからすぐ、柿に話しかけた。
『あの頃は、助かった。礼を言う。ありがとう』
『久しぶりだな。また会えて嬉しい。ああ、もう出会ってからもう三百年以上経つのか。庭のあけびも元気だ。私と一緒に天然記念物になっている。ひとは不思議がっているぞ。私はこんなに長寿な木ではないからな』
『たくさん力を分けるから、長生きしてくれ』
『仙狐、今、幸せか?』
『ああ。幸せだ』
『……良かった』
柿はそう言い、微笑むように風に葉を揺らした。
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