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〖第42話〗
しおりを挟む正一の頬を涙が伝った。俺は正一の頬を打ち、胸をこぶしで叩いた。涙が溢れてきて大声で泣いた。泣き叫ぶ声で喉が千切れてしまうくらいに。
俺は正一の背に手を回す。暫くして正一の胸の中で脱力する。涙が枯れたみたいに出なくなった。
「すまない、雪……すまない……」
俺は、正一の懐から泣き濡れた痕の残る顔をあげて、じっと見つめる。力の入らない震える手で、正一の着物の袖をぎゅっと掴む。
「……しょう、いち……約束、して。ずっと一緒、いて。離れ、ないで。離さ、ないで。永遠、俺と、一緒に生きて」
「ずっと、一緒だよ。雪……ずっと、一緒だ」
***
林檎を食べながら話す。さくさくと良い音がする。
「し、正一。俺が、『本当の食事』する、見たい?」
おずおずと、訊いた。新鮮な林檎を前にして、お腹が鳴った。それに、正一なら食事を見られても良いと思った。
「ああ。見てみたい」
「でも、この林檎、甘く、なくなる。それでも、いい?」
正一は頷く。正一にじっと見つめられ、少し緊張する。指先に感覚を研ぎ澄ます。
ふわっと風が起こる。林檎に添えられた指先が金色に淡く光る。ほんの少しの出来事。
「ごちそう、さま」
「これが『食事』?」
「うん。一週間位、お腹、すかない。力、分けて、もらう、だけ。でも、死ぬまで、う、奪う、絶対、だめ……なのに、俺、取った。だから、こうなった」
「──私は村外れの大きな寺の徳が高い住職に、美しい青い石を飲めば、仙狐のすべては浄化される、止まった時の針も動き出すと言われたよ」
この話を、聞かれたんだなと俯き、正一は続ける。
「後から仙狐の寿命は長いと聞いて、君の一生を見送った後から、君がくれた青い石を飲もうと思った。止まった針が動くから、飲んだ瞬間、灰になるかもしれないけれどね。探しにいくかい?旅に出るかい?雪。たくさん歩って旅をして、二人で青い石を探しに行こうか?それに、そうだな、まず海を見に行こう。そして、色んな物を二人で見ようか」
正一は眉を下げて、困ったように笑う。
「うん。探し、行く。二人で行く。泪の石、探そう?一緒に、行こう?俺、ずっと、正一の、傍にいるよ。正一、ずっと、一緒に、いられるね。ずっと、ずっと、一緒に、いられる。俺、それだけで、幸せ。探そう、もう一つの、泪の石」
俺は笑った。確かに笑ったはずなのに、涙が流れた。正一も微笑みながら泣いていた。
「そうだね。雪、ずっと一緒にいられるね。ずっと一緒だ」
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