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〖第40話〗
しおりを挟む母さん、これが『掟』なの?俺は生きる理由を、大切なものを失って、死ぬことすら出来ないの?『力』を使って命を奪ったから?
手にした幸せが、脆く、滑り落ちていく。
心の底から愛しいと思えるひとと出会って築き上げてきたものすべてが一瞬にして壊れてしまった。
俺は、泣きながら笑う。大声で笑う。母さん、俺はどうしたらいいの?どうしたら、死ねるの?
涙が止まらない。俺は呟くように言った。
「死なせて……」
正一は、床に伏すように倒れ込む俺を、強く抱きしめて、震える声で、正一はいう。
「雪は、悪くない」
俺は、鼻で正一を笑う。抵抗し、声を出しすぎたせいで、うまく声すらでない。
「もう、いい。正一も、俺のこと、化け物、だって、思ってるん、でしょ?そう思う、仕方ないよ。もう、いいんだ……俺、山、帰る。きっと、その方がいい。もう、里には、二度と来ない。正一、もうやさしくしなくて、いい。正一、俺、正一のこと、騙してた、ごめん、なさい、ごめんなさい。許して。正一の、こと、好きになったの、許して」
言葉を口にした瞬間、堤が決壊したみたいに涙が溢れだした。俺は正一にしがみついて大声で泣いた。
「だ、騙して、た。ごめん、なさい。正一の、こと、好きに、なって、ごめんなさい。でも、どうしたら、いいか、わ、解らない、くらい、正一の、こと、好きだったの。ごめん、なさい。ごめんなさい。許して、許して。俺、山帰る。でも、忘れないで。俺の、こと、少しでもいいから、ほんの少しでもいいから、憶えていて……」
「いいんだ、雪。もう、いいんだ。一緒にいよう?ずっと、一緒にいよう?」
正一は、そう言い抱きしめる力を強めた。身体が痛いくらいだった。いつもの冷たい手が悲しい。俺は、嘲笑って言った。
「俺の、本当の、姿を見ても、同じ事、言える?」
そんな俺を伏し目がちに見ながら、正一は言った。
「言えるよ。……君は仙狐だろう?出会ったとき、君は岩の裏に隠れて綺麗な真っ白な体を震わせていた。あの小さな幼い白い狐は、君だろう?」
正一は、知っていた。俺が仙狐だと、正一は知っていた。人間じゃないのに。騙していたのに。呆然とする俺を置き去りにし正一は話を続ける。
「君の母さんを殺したのは、私だ。両替商の奥方から依頼を受けた。美しい女に化けた何かに、主人は取り憑かれてる、だから病になったと」
「違うよ!母さんは、病気の、両替商の、おじさんに、力を分けて、あげてたっ!」
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