永遠の御伽噺─仙狐の恋─

カシューナッツ

文字の大きさ
上 下
36 / 44

〖第37話〗

しおりを挟む

「そう言えば、前に雪がくれた石は、海の色に、似ている。大事に持っているよ」

    そう言い、正一は胸元から小さな巾着を出し、泪の石を見せた。海に似ているのか。だから、海は、しょっぱいのか。

「もう一つ、ある。大事な、石。正一、しまっておいて」

    正一は「わかった」と言い、身体を起こし、もう一つの泪の石を寝室の箪笥の一番下のからくり箱にしまった。

***

 年も明けて、寒い日が続いていた。正一は、夜に小豆を煮てくれる。煮えるのを待ちながら、二人で気長に竹細工を作る。
正一が作る竹細工は細かくて評判がいい。俺は下手くそで小さな籠を編むのが精一杯だ。

『悪い事』をした後の朝は少しだるい。でも、いつも早起きの正一の寝顔がゆっくり見られるから、嬉しい。静かな、落ち着いた寝息。見ているだけで、幸せになれる。
正一の睫毛が朝日に反射して、金色に光っている。目が覚めた正一は、俺と目が合うと、「おはよう」とやわらかな声で言い、微笑んでくれる、それだけで満たされる。今日は町へ行くと言っていた。

「じゃあ、行ってくるから。暖かい格好をして待っているんだよ」

「今日も、たく、さん売れると、いいね。正一、気を、つけて」

 布団をたたみ、掃除をする。今日は正一が町に行った後、昼過ぎに患者さんが来た。長旅で足が疲れた人と、あとは、たまに腰が痛いと訴えるお爺さんと、良く熱を出す子供が母親に背負われて来た。その人達に薬を売る。

 俺は大概の薬の効能は正一と過ごすうちに解るようになった。みんなにこにこしていた。

人がいないのを、よく確認し、柿に話しかける。

『先日は、恥ずかしいところを見せた。忘れてくれ』

『そうか。中々可愛らしかったぞ』

    柿は笑う。

『すまないが、力を分けてくれ』

『流石の仙狐も、閨は疲れるか』
    
 クスクスと柿は笑った。

『……っうるさい!』

『まあ、照れるな。しかし、物凄い色香だな』
    
 笑うように、柿の木が、少なくなった実を葉ごと、枝を揺らして差し出す。

『食え』

『……いつもすまない。この前はたくさん力をもらった。疲れただろう』

『謝るな。華乃を思い出す。……華乃は自由を好んだ。私とは相容れない運命だった。木は動けないからな………少し、喋りすぎたな』

ふふっと笑い、柿は黙った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

処理中です...