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〖第37話〗
しおりを挟む「そう言えば、前に雪がくれた石は、海の色に、似ている。大事に持っているよ」
そう言い、正一は胸元から小さな巾着を出し、泪の石を見せた。海に似ているのか。だから、海は、しょっぱいのか。
「もう一つ、ある。大事な、石。正一、しまっておいて」
正一は「わかった」と言い、身体を起こし、もう一つの泪の石を寝室の箪笥の一番下のからくり箱にしまった。
***
年も明けて、寒い日が続いていた。正一は、夜に小豆を煮てくれる。煮えるのを待ちながら、二人で気長に竹細工を作る。
正一が作る竹細工は細かくて評判がいい。俺は下手くそで小さな籠を編むのが精一杯だ。
『悪い事』をした後の朝は少しだるい。でも、いつも早起きの正一の寝顔がゆっくり見られるから、嬉しい。静かな、落ち着いた寝息。見ているだけで、幸せになれる。
正一の睫毛が朝日に反射して、金色に光っている。目が覚めた正一は、俺と目が合うと、「おはよう」とやわらかな声で言い、微笑んでくれる、それだけで満たされる。今日は町へ行くと言っていた。
「じゃあ、行ってくるから。暖かい格好をして待っているんだよ」
「今日も、たく、さん売れると、いいね。正一、気を、つけて」
布団をたたみ、掃除をする。今日は正一が町に行った後、昼過ぎに患者さんが来た。長旅で足が疲れた人と、あとは、たまに腰が痛いと訴えるお爺さんと、良く熱を出す子供が母親に背負われて来た。その人達に薬を売る。
俺は大概の薬の効能は正一と過ごすうちに解るようになった。みんなにこにこしていた。
人がいないのを、よく確認し、柿に話しかける。
『先日は、恥ずかしいところを見せた。忘れてくれ』
『そうか。中々可愛らしかったぞ』
柿は笑う。
『すまないが、力を分けてくれ』
『流石の仙狐も、閨は疲れるか』
クスクスと柿は笑った。
『……っうるさい!』
『まあ、照れるな。しかし、物凄い色香だな』
笑うように、柿の木が、少なくなった実を葉ごと、枝を揺らして差し出す。
『食え』
『……いつもすまない。この前はたくさん力をもらった。疲れただろう』
『謝るな。華乃を思い出す。……華乃は自由を好んだ。私とは相容れない運命だった。木は動けないからな………少し、喋りすぎたな』
ふふっと笑い、柿は黙った。
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