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〖第24話〗
しおりを挟む涙と一緒に「ふふっ」と、口から小さな笑い声が漏れる。ため息に似た、切なさをすべて閉じ込めたような、自嘲の、声。
カツン、カツンと足元に青く透明で綺麗なまるい石が二つ落ちた。
「な、泪の石?」
俺は二粒の薬指の爪ほどのまるい石を拾う。
────────
……昔、桜の古木と仲良くなったとき聞きかじり、母さんに少しだけ聴いた。
「母さん『泪の石』って知ってる?」
「知ってるわ」
母さんは俺から目を逸らして、遠い目をした。
「一人前の仙狐が泣くと、その涙は石になるの。でも悲しいだけの涙では石は出来ないのよ」
「どんな時に石は出来るの?」
「そうね。『どうしようもない時』かしら………」
────────
正一は包帯と薬を一包み持ってきた。俺は石を懐の巾着に隠した。
「浦黄という薬だ。手を出しなさい。しばらく水仕事は私がやる」
俺は手のひらをみせる。俺の手を見た瞬間、正一はつらそうな顔をして眉間に皺を寄せた。
「雪……どうして……こんな、こんなになるまで……」
俺はそんな、正一を見て嗤う。こんな笑い方が自分から出るとは思わなかった。
「お、俺の手、汚い、だろ。傷、だらけ。そんな、顔、す、するなら、見るなっ!手当て、しようとか、言うなっ!」
俺は手を握って後ろに隠した。
「手を出しなさい。痛かったろう。気づいてあげられなくて、すまない。ほら、手を見せて」
長い瞬きをして、正一は俺を見つめ、手を掴もうと、膝の距離を縮める。
「どう、して?お、俺のこと、好きでも、ないのに、やさしく、する?そんなに、似てるの?俺は、正一、す、好き、なんだよ?正一、やさ、しいの、期待する。……正一、残酷、だよ」
「雪」
正一が俺を呼ぶ。穏やかな、いつものように俺に語りかけるような声で、俺を呼ぶ。ゆっくりと、繰り返し、俺を見つめる。
そんな顔しないで欲しい。未練が残る。縋りたくなる。惨めな思いはもう嫌だ。
「……正一、く、苦しい、よ。つらいよ。た、助けてよ。手の、傷、いいから『ここ』が苦しいの、痛いの、治してよ……!」
俺は握りしめた右手で胸を何回も叩いて泣き崩れた。大声で泣いた。身体の中の苦しさが、全部出ていけば良いのに。
正一のことが好きな気持ちも、全部涙と一緒に消えてしまえばいい。嗚咽も絡まり、全身を震わせて泣いた。
胸の奥が痛くて、ちぎれそうだった。
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