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〖第17話〗
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これまで、と言っても二ヶ月と少しくらいしか経ってないけれど、俺は小さな家のことをしている。庭の落ち葉を箒ではいたり、寝室の掃除をしたり。濡れ雑巾で廊下を拭いたりする。何かしたかった。正一を喜ばせたかった。最初、寝室を掃除し、家具を磨きあげた俺に正一は俺に、
「雪がそんなことをする必要はないんだよ」
と困ったように言った。
「俺は、し、正一の、や、役には、たて、ない?何でも、いい。出来ること、する」
「どうして、雪……」
何故だか解らないけれど、正一は俺を見て困ったように眉を下げる。一生懸命言葉を探す。
「正一、俺のこと、か、可哀想で、拾う。俺、い、いそうろう、だから。働かない、だめ」
そう言った瞬間、正一の表情が翳る。
「私は、君をそう思ったことは一度もなかった」
正一は傷ついた顔をして、瞳を伏せた。俺は、ただ、部屋をきれいにして正一に喜んで欲しかっただけなのに。
「きれい、部屋。嬉しく、ないの?正一、喜ぶと、思った……」
正一の表情に肩を落とし俯く俺を、正一はぎゅっと抱きしめ、背中を撫でた。
「……ありがとう。雪。嬉しいよ。でも、きれいにするのはここだけでいいよ。そうだな、もし元気があるなら庭先を箒ではいてもらえないか?あと……奥の部屋には入らないで欲しい」
そう言い『囲炉裏にあたっていなさい。冷えてしまうから』と正一は言い残し、正一はお勝手に消えてしまった。俺はそれに従う。
正一に、嫌われたくない。
ぼんやりとそう思う。以前は、独りが怖かった、それだけが正一といる理由だった。今は違う。一緒に居たい。何か役に立ちたくて、それで正一が笑って欲しい。
でも正一が必要なのは俺の手じゃない。『糸さん』と言うひとだ。銀杏が見せる正一の過去に、言葉だけ出てくるひと。今はもう、いないひと。
なら、せめて、悲しみの量が減るようにしてあげたい。ここに来た頃、毎日泣いていた俺に正一がやさしく接してくれたように。正一が欲しい言葉をあげて、正一が喜ぶことをしたい。それが、今ここにいる理由だ。
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