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〖第13話〗
しおりを挟む俺は、何も出来ない。傷だらけの正一を、癒す術を持たない自分がつらかった。無力だ。
『正一が、切ないか。仙狐』
柿が言う。
『うん。でも、正一は俺を必要としない』
涙ぐむ俺を柿は鼻白みながらも、何も言わず、茂る葉で俺の長い髪を撫でた。
『仙狐の恋か。悲劇だな』
『何か、言ったか』
『いや……何でもない』
──────────
正一は俺に昔のことは何も語らない。話す必要がないと思っているのか、話しても解らない、理解できないと思っているのか。それは俺が正一にとってただの可哀想な『子供』だからか。
そう思うと、悲しみと、無力感に襲われる。何にも期待されない自分が悔しい。俺じゃ正一を癒せない。その前にに正一は俺を必要としない。
癒すなんてこと自体おこがましいのだ。正一に必要なのは『糸さん』と言うひと。銀杏が見せてくれた過去に、何回も出てきた言葉。
正一は哀しみを含んだ声で、糸さんを呼ぶ。宙を見つめ愛おしそうに、
『逢いたい、逢いたい、糸』
と、千切れそうに恋焦がれて、泣く。まるで生命を削るように。俺はあんな風に呼ばれたことはない。俺は布団を頭から被って泣いた。
「雪?どうした?悲しいことがあったのか?」
ここでいっそのこと『そうだ』と言いたい。『いつも正一のことを考えてる』と言ってしまいたい。正一はどんな顔をするんだろう。俺の言葉が何を意味するかは正一もわかるだろう。
そして、そこで全ては終わってしまうのは、こんな俺でも解っている。情けない泣き顔を晒してこんなこと、普通は言わないだろうから。
正一に教えて欲しいことがたくさんある。役に立たない、話し相手にもしない俺をどうしてここに置くのか、やさしくするのか。
正一にとって俺は可哀想だったのかな。あの雪の日、母さんを失った日、俺は正一にすれば、山に捨てられた、ろくに言葉も話せない憐れな子供だったんだよね。
正一もただ、寂しいだけだったのかな、糸さんを失って。あんなにボロボロになって、何があったの。糸さんって、正一の何だったの?
──きっと、正一のすべてだったんだね。
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