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〖第10話〗

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 きっと俺のことは、生活がたちいかなくなって親が口減らしに山に捨てた、気の毒な子供だと思っているんだろう。
 しかも、俺は人間の言葉が上手く話せないし、尚更可哀想とでも思ったのかもしれない。
 正一は夕飯の玉子粥を俺の半分より少し多いくらいの量しか食べなかった。

「正一、俺、す、少しが、いい。正一もっと、食べる、いい」
 
 俺がそう言っても、正一は困ったように微笑んで、

「気を遣わなくていいんだ」
    
 それから、

「あまり贅沢をさせてあげられなくてごめん」
 
 とあまり太くない眉を下げ、笑った。

 正一は悪くないのに、どうして正一は謝るんだろう。何故困ったように笑うのだろう。解らない。ただ俺は切なくて胸がチクリと痛んだ。口に入るものは俺にとっては嗜好品、煙管で吸う煙のようなものだ。

 最初、正一で食事をとれれば……と考えていた自分が恥ずかしくなった。正一にとっては捨て子を拾ったようなものだ。でも、どうして、こんな俺なんかを。正一にとっていいことなんて一つもない。食い扶持が一人増えるだけだ。

 人間って皆こうなのか。いや違う。髭面の男みたいな下品な奴もいる。

 それでも、面倒なものを抱えてもいいほど、正一は寂しかったのだろうか。

──────────

 夜も更け庭の柿に頼んで久々に食事をしようと起き上がる。隣で寝ている正一を起こさないように音を立てず、庭に出た。

『夜分すまない。少しだけ力をくれ』

 俺は柿に話しかけた。

『仙狐か。まだ若いな。……華乃の子供か?雪、だな。雀に噂は聞いたが、残念だ。信じたくなかった……。仙狐、どうしてお前はこんな人里にいるんだ?』

『正一に拾われた。食事をさせてくれ。あまり力は取らない』

    柿は『ふふふ』と笑った。風が音をたてて周りの木々を揺らす。柿が実を一つ、枝を伸ばし、差し出す。

『食え。でも全部は食うな』

『解ってる』

   手を伸ばす。集中させた指先で実に触れる。すっと力が入ってくる。上質な清水を飲んでいるようだ。少し甘くて、さらりとしている。

『ごちそうさま』

『もう、いいのか。行儀がよすぎるのも問題だ』

『いや、もういい。正一が起きる前に布団に入っていたい。今日は寒い』
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