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〖第13話〗
しおりを挟むもう充分でしょう。生きることが贖罪ならもう、充分生きました、ただ一人生き続けました。もう、これが最後でありますように。Drシグマの所へ『あの世』へ行けますように。そう願いながら私は束の間の眠りについた。私はあまり睡眠を必要としない。うたた寝で十分だ。眠ったままあのひとが言う『あの世』へ旅立てたら。
ある日の朝、AIが嬉しそうに私を起こした。
「おはようございます海さま。お誕生日おめでとうございます。ケーキを焼きました」
「ありがとう、アクア。誕生日なんて考えたことがなかった。毎年来るのね。私が時を忘れようとしても、時が私を忘れることはないのね……水を意味するラテン語。アクア。遠い昔に使われることがなくなった言語でも単語は生きている。必要とされなくなった人間でも、私は生きている。同じね。でも、アクア、綺麗な響きね。私はただのおばあちゃんだわ」
私が笑うとアクアは悲しいと、光と音信号を出した。
「悲しいことを仰らないで下さい。国連本部からあなたに贈り物があります。もうひとはいませんが光エネルギーで動くAIロボットがいるのです。海さまが百歳の誕生日にそのAIロボットが地下通路を通り此処にプレゼントを持ってきます」
「プレゼント?」
「ええ。海さまが喜ぶものだとだけ伺っています」
私は電気をいつもより明るくし、AIロボットがプレゼントだと嬉しそうに運んでくるのを待った。エレベーターで一台のロボットが、大きな台車に載せた群青の布を被せた箱を運んできた。
「培養花、取り出します。コールドスリープより蘇生処理、開始」
息ができない。目の前にいるのは花に囲まれたおじいさんのあなた。AIロボットの的確な蘇生処置を行いました。みるみる顔色に赤みが差し、肌も年齢は感じるけれど生き生きとした色になっていく。目を開けたあなたは、私を見て昔と変わらず柔らかく笑いました。
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