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〖第11話〗
しおりを挟む「可哀想に、海。すまない。君を守れなかった。あんなもの治療じゃない。嫌がらせだ。あんなに髪を、しかも痛み止めもなく毟るなんて………正気の沙汰じゃない。それに採血の量も多すぎる。すまない、海」
「大丈夫です。それに、それが創られた目的ですから。生命の素。全世界に出荷しましょう。私の培養した遺伝子を、血液を希釈した栄養剤で世界中のひとに一時的に元気になってもらいましょう。私の、生きる意味です」
「それは………」
私は小さく笑った。
「海………?」
私はにっこり笑った。私も、知っている。私の身体のどの器官も遅効性の猛毒。薬なんかじゃない。最初は薬。完璧に疾病や怪我を治す。けれど、身体の芯に見えないように猛毒がたまり、どんな病にもかかりやすく、怪我も芯からは治らずそこから化膿し壊疽する。Drシグマも知っている。
「Drシグマ。私はひとを救えないんですね。あなたの役に立てなくて、申し訳ありません」
酸素の泡が口から出る。そう私が言うとあのひとは首を振り、
「いいんだ」
と言い自嘲った。もう一度
「いいんだ」
そう、眦に涙をため、あのひとは私に笑って見せた。
「君を創った本当の意味だからね。私は綺麗に人類には幕を引かせたかった。それは私一人の力では無理だった。君の存在が必要だった」
君にはつらい思いばかりだった。痛みも、寂しさも。悔しさも生半可なものではなかったはずだ。すまない。そう言いあなたは目を伏せた。
「そうそう、君の睫毛と肌の細胞を無理やり実験と言い美容移植させた職員が死んだだろう?良いデータが取れた」
私は実験と、栄養剤の『生命の素』を創り、ダメージを受けた自分の身体のその療養以外、Drシグマの第一助手の研究員として働いていた。
「そのままにしておこうと思っても、彼等は君を傷つけていくんだな」
私は無理やり剥がされた皮膚の傷を癒すため、逃げ込んだ培養器の中で静かにあのひとを見つめた。
もう、ひとも少なくなった研究所で、私は小さく言った。
「運命は、受け入れます」
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