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〖第9話〗
しおりを挟む『痛みと苦しみの毎日も、あなたがいるだけで生きていける』
でも、言えない。きっとあのひとは望まない。
「……そうですか。昨日、職員が亡くなった話で研究所は持ちきりです。免疫力の著しい低下ですね。原因は上気道炎、ただの風邪です。今、世界で流行っている、あの病ですね。ところで……Drシグマ。私の母はどんな細胞ですか?……父も」
「両親の『細胞』と訊くのは君らしいというべきなのかな」
シグマは軽く笑った後、私を形作った卵子は、純血種の治めるかつて大都市があった地域を勢力下に置く、純血種のトップの男の選んだ妻のものだと教えてくれた。世界で至高たる、最優秀の卵子。純血種の優秀な雄個体は野生の感で優れた遺伝子を持つ雌個体を嗅ぎ分けるように選ぶ。
「国連が冷凍保存していた貴重な卵子だ。食料と交換に交渉し卵子を貰った。精子は『寄生純血種』だったからね。人口受精が出来た。拒否反応が起きなかった。父親は……孤児の浮浪児同然の自然淘汰された側の人間だった。まあ、だから『純血種』と子供を残せる。勿論、海……君の受精卵の塩基配列はかなり書き換えたけれどね……父親は、他人に取り入りのしあがったと散々言われてきた、『寄生純血種』出身だ。海。名前は私が名づけた。母なる海。生命の海」
──────────
実験とは名ばかりの虐待紛いのことを行う周囲から私を懸命に守ってくれたのはシグマだけだった。ある日副所長がシグマに怒声をあげる声がした。
「コウちゃんはのただの精子提供者で、父親じゃないわ。国連に頼まれて『あんな物』を創っただけなのに、何でそんなにあんな子に優しくするのよ!あんな人口生物。気味が悪いわ!」
そう、洩れ聴いたことを言いたかった。
『あなたは私の父親なんですか?だから私に優しくしてくれるんですか?』
訊いて、何になる。シグマにとっても、私にとってもいいことなど一つもない。私はシグマの前では実験体でいい。一人の女でいたい。娘なんか知らない。
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