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〖第2話〗
しおりを挟むあなたに恋するのは必然だった。ただ、『好きです』とか『愛しています』とか、言える恋をしたかった。Drシグマ、志熊幸一。私の二十歳の誕生日、目の前で地下通路から国連軍にあなたは連行され、処刑された。
死ぬ前に国連軍に録音を許可された古ぼけたMP3の音源が暫くし、研究所に届いた。私は呆然と涙を流した。副所長のDrエリコはあなたをコウちゃんと呼び、MP3プレイヤーを抱き締めた。そして私の頬を打ち、罵り、泣き叫んだ。俯く私の髪を掴み上を向かせ私を見下すように言った。
『あんたの受精させた精子は、コウちゃんのものだったの。けどね、卵子は所詮AIが選んだ細胞よ』
そして濡れた瞳で嘲笑いながら、
『まあ、あんたがここにいるのは、結局、機械が仲人の細胞のお見合いの結果よ』
嬉しそうにDrエリコは、シグマの死に打ちひしがれる私へ、勝利感たっぷりに釘を刺した。
「Drシグマの妻は私。大切なのは私。愛していたのは私。あなたなんかこれっぽっちも愛してないの。コウちゃんにとって、あなたはただの遺伝子提供者よ。父親じゃない。ただ、コウちゃんはやさしいから責任を感じていたの。もちろん恋愛感情なんか抱くはずもないだろうし。あなたは大人しく人類に献血し続ければいいのよ。コウちゃんはその為にあんたを作ったんだから!」
その日私は泣いた。初めて痛みで勝手に涙が滲むのではなく、副所長の言葉が悔しくて、悲しくて、白いワンピースを握り咽び泣いた。そして、あなたを失ったどうしようもない哀しみ。
もうあなたが私の名前を呼ぶ優しい声を聴くことはないというどうしようもない虚無感。一緒に逝きたかったけれど、あなたは私に生きろと言った。そして、私を愛していると。
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