セイレーン─海を捨てるくらいの恋─(番外編追加しました)

カシューナッツ

文字の大きさ
上 下
22 / 22

ショウとの出会い・セイラ目線〖番外編〗

しおりを挟む

何で僕は満月じゃなくても陸に上がれるの?髪も、黒くて、瞳も黒いの?

そう幼い頃おかあさんに詰めよった。おかあさんは悲しそうな顔をしたので一回しか訊かなかった。


でも、しばらくしておかあさんが、語り始めた。

『セイラのおとうさんはニンゲンだったの。でも、そのひとがおかあさんの運命のヒトだったの。いつかセイラにも解る日が来るわ。』

『解らないよ。そんなの』

『そのひとが、恋しくてたまらなくなるの。おかあさんは一度海を捨てた。あなたを生むために。人魚とニンゲンの時間は違うから、あのひとが生きているうちにもう一度会いたい。セイラが良かったら、おとうさんに会って欲しいな。素敵なヒトよ』

ヒトか。
皆言う。人魚の敵だと。

人魚は美しい歌声で、ヒトを惑わし
船を沈め
ヒトを喰う

そんなことが信じられている。
恐ろしく野蛮な生き物。


『おとうさんは、違うわ。石を投げる子供からおかあさんを助けてくれて「ミカン」という果物を半分にしてくれて、むいて食べさせてくれた。地上は悪いことも……あったけど、あのひとと過ごした日々は全て……美しかった。幸せだった。長く親しんだ海にいるより、大地が呼ぶの。あのひとが悲しくて、寂しくて、おかあさんを呼んでるんじゃないかって。おかあさんも泣いてしまう。あのひとはやさしいヒト。いつか、セイラがいいって言う日、おとうさんに会いに行こう?』

おかあさんは続ける。



『人魚はね、愛するヒトを失って、それでも相手を乞うと真珠が零れるの。大きな悲しみと相まって、綺麗で悲しい色の真珠がね。一度だけ、ね』

僕はそっと陸に上がり、遠くからおとうさんを見た。畑の夏野菜に水をやっていた。

一瞬だけ目があった。
瞬間、おとうさんは泣いた。

『行かないでくれ、ここに居てくれ。いつまでも待ってる。待ってるから』


どうやらおかあさんと僕を間違っているみたいだ。
そして、おとうさんは畑の土を掴み号泣していた。

僕は軽い気持ちで、おとうさんの気持ちを抉った。



ごめんなさい。海に戻ると、陸の匂いがしたのか『ショウ、ショウ』と言い泣いていた。僕は決めた。陸に行く。

陸があわなかったら僕だけでも、帰ってくればいい。


『おかあさん、陸に行こう。おとうさんに、会ってこよう』  
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

実はこれ実話なんですよ

tomoharu
恋愛
え?こんな話絶対ありえない!作り話でしょと思うような話からあるある話まで幅広い範囲で物語を考えました!ぜひ読んでみてください!1年後には大ヒット間違いなし!! 作品情報【マーライオン】【愛学両道】【やりすぎ智伝説&夢物語】【トモレオ突破椿】など ・【やりすぎ智久伝説&夢物語】とは、その話はさすがに言いすぎでしょと言われているほぼ実話ストーリーです。 小さい頃から今まで主人公である【智久】はどのような体験をしたのかがわかります。ぜひよんでくださいね! ・【トモレオ突破椿】は、公務員試験合格なおかつ様々な問題を解決させる話です。 頭の悪かった人でも公務員になれることを証明させる話でもあるので、ぜひ読んでみてください! 特別記念として実話を元に作った【呪われし◯◯シリーズ】も公開します!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

М女と三人の少年

浅野浩二
恋愛
SМ的恋愛小説。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

僕は人を好きになれない

杜鵑花
恋愛
春は出会いと別れの季節―― 故に人間の感情が大きく変化する季節でもある。 だから、こんな春雨が降る日なんかには自ら世界を去ろうとする人間が現れたって何ら不思議ではない。

処理中です...