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ショウとの出会い・アイラ目線──《番外編》
しおりを挟む私達人魚は海の神様に愛されたのよ、
そう、母さんが言っていた。
金の髪
碧い瞳
七色に光る尾びれ
波間に響く美しい歌声
蒼い月がでたある日、僕は月に誘われるように岸に近づいた。
人間は人魚を敵だと、惑わすものだと思っている。
『でもね、母さんは満月の日、一度だけ陸に上がったのよ。そこにいた人間は優しい人だった』
母さんは、その人間が好きだったんだろうと思った。
『胸が苦しくなる。今でも。会いたい。でも私とあの人は相容れないのよ。人魚は所詮人魚なの』
母さんは泣いていた。本当に悲しいときに流す人魚の涙は大粒の真珠になる。
母さん、僕は人間は嫌いだ。やっぱり仲間の言うことは正しかったみたいだ。
『月が綺麗だね』
そう、言っただけで、そこにいた人間は、口々に僕を化け物だと言い、蔑み、罵声を浴びせ、傷つけた。
「化物だ!」
「あっち行け!」
そう言い石を投げた。痛みをこらえながら石から顔を庇い僕は耐えていた。震える声で、
『やめてよう』
『痛いよう』
と泣いた。あまりにもつらかった。何で『人魚』というだけで、化け物扱いを受けなければならないのか。
「やめろよ!怯えてるだろ!可哀想じゃんか!」
一人の少年が、僕を庇ってくれた。他の人間はいなくなり『ショウ』と呼ばれる君と僕は終始無言だった。
『君は、僕に石を投げないんだね』
「手当てするから、そっちへ行く。あのさ、君は人魚なの?」
『だったら殺すの?魔物だって、人を惑わして海に誘って人を喰うって』
泣きながら僕は意地の悪いことを言う。こんなこと言いたくないのに。
怖いけど、僕は助けてもらった。砂浜で触れる距離まで来た君を一生懸命嘲笑しながら睨むけれど、本当は切なくて、君の眼差しが真摯で何処かこそばゆくって。
君の名前はショウって言っていた。
僕は、終始黙っていた。君はハンカチで腕を縛って血を止めてくれた。盗み見た、星空を映したような黒色の瞳に吸い込まれそうだった。優しい、誠実な目をしていた。
君は沈黙は気まずかったのか、僕に話しかけた。
返事をすることはないと、解っていたのかもしれない。
「斜め後ろに住んでた婆ちゃんが『海には美しい魔物が棲む』って言ってた『禍々しいほど美しいのは海に誘って人間を喰うからだ』って。俺はそうは思わない。君が人を食べるなら、幾らでも俺たちを喰う機会はあったはずだ。あとさ、これ!一緒に食おう!」
君は見ていて飽きない。コロコロとした動きはかわいい。君は給食の蜜柑をバックから出した。
『何これ』
「蜜柑。甘酸っぱいんだよ。一緒に食べよう」
君は蜜柑を二つに割った。初めて嗅いだ甘酸っぱい香りが鼻腔をくすぐる。潮風に混じる。
どうしても、躊躇ってしまう。ショウが信じられないんじゃない。不思議な色をした初めて見る海草を食べる感じ。
そうしていたら、君はパクリと蜜柑を食べて笑った。
つられて僕も食べる。僕は驚いた顔で目をみはり、両手で頬をくるみ、笑った。
「うまいだろ?気に入った?君は月の光が似合うな。それにしても尾びれが本当に綺麗だ。金色の髪も、碧い瞳も。見惚れるくらい綺麗だから、悪口はやっかみだな」
少年の優しい眼差しが嬉しかった。
「じゃあな。また、逢えたらいいな」
『待って!僕、アイラっていう。君を待ってるよ。また、一緒に蜜柑、食べたい』
前言撤回は、速すぎるけど、僕は、この少年が好きになった。澄んだ瞳をしている。
『君だからいい。一緒に蜜柑を食べるのも、こうして姿を見せるのも君だから。君だけだから……皆僕を見ると石を投げる。化物っていう。また君に逢いたい。………君が蜜柑をくれた。君が初めて優しくしてくれた………僕を初めて綺麗だと言ってくれた。君だけだよ。君だけが僕の特別なんだ』
不思議だね。こんなに簡単に、誰かを好きになれるんだよ。
あ、寝ちゃったか。お父さんと初めてあって、お母さんがお父さんを好きになったはなし──まだ、早すぎたかな。眠ってる。可愛いな。ショウそっくり。
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