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人魚の面影を乞うとき《10─1》
しおりを挟むいつまで、待てば君に会える?君の帰りを。どれくらいの年月を待てば良いのか。君の不在を。おじいさんになるまで、一人で?
周りは皆、恋愛して、結婚して、子供が出来て、孫が出来て──看取られて死ぬらしい。俺はどうなんだろう。
君は俺との子供を無事生めたのかな。あまり苦しくないといい。あの洞窟に、いつも満月の日蜜柑を二個流しているのは気づいているのだろうか?
片方にはアイシテルと爪で引っ掻いて。
もう片方にはアイタイと搔いて。
あの別れ、振り返って欲しかった。君は地上から足早に去っていった。きっと明ける朝と沈む月のタイム・リミットのせいだろう。
でも、案外良かったかもしれない。別れの時、俺のみっともない泣き顔を見るのはいやだろう。君の踊るように跳ねる七色に光る尾びれは見れた。やはり君は綺麗だ。
もう、隣に君はいない。いる日々も帰ってこない。もっと思い出を作れば良かった。君を気遣ってあげれば良かった。
梅干しおにぎり、好きだったね。三角になりきれていない不格好なおにぎりを『ショウのおにぎりが一番美味しい』って食べてくれた。
そして、『蜜柑を剥いて』とねだる君は可愛らしかった。でも、もう君はいない。少しだけ高い君の声も聞こえない。
君がいないのに、俺は何故ここにいるんだろう。悲しくて悲しくて死んでしまいたくなるときがある。海を見ると、大きな波音を聴くと、泣きたくなる。だから俺は土と生きる道を選んだ。
──────────
高校をぼんやり卒業して、じいちゃんに弟子入りして焼き物を教わった。酔月の号はまだもらえていないが、その代わり自分で作って気に入ったものには人魚の尾ひれのような印を小さくつけている。
何年もたった。君を待った。待ち疲れはしない。死ぬときに君がいてくれれば寂しくない。これだけ恋しいんだ、幻の君にも会えるだろうと思う。そのくらいの望みしか持たなくなった。望みが、欲が大きければ大きいほど想いが叶わなかった時はつらいのは解っているから。
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