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人魚の面影を乞うとき《10─2》
しおりを挟む愛してる、今も。ずっと待つ自信もあるよ。あの日、君を抱いた証の子に──俺と君の子供に会うまで死ねないよ。今は、三十の後半に差し掛かった。じいちゃんは脅威の九十越えで、ピンピンしてる。
──────────
『──今夜はブルームーンが見られるようですよ』
『神秘的ですね──蒼い月ですか』
──────────
朝から偶々見てしまったこのニュースを思うたびに、君を思い出す。
初めて君と出会った日も、ブルームーンだった。蒼い月が、君の七色に光る尾びれと、金色の髪、碧色の君を照らしていた。部活の仲間に石を投げられ、泣きながら『痛いよう』『やめてよう』と言っていた。
俺は『やめろ』と言った。人魚の噂は聴いていた。人を喰うと。禍々しいほどの美しさはそのせいだと。けれど、ただ見惚れた。
君に一目惚れをした。
君は一瞬にして俺の心を奪った。
今ここにいない君。
月を見上げて想った。君がいても言う。目を見て、俺は照れながら言う。
『あまりに綺麗で見惚れた。君を一目見て、俺は恋におちた』
今ここにいない君に話しかける。
透明な君は笑う。
隣を見ればいない君を思い出してしまう。
こんな蒼い月の日には。
『砂浜に、月を見に行こう?久々に海に浸かりたいな』
そんなことを言って、君は笑うのだろうか。
『海にいこうか。蜜柑を持っていこう。アイラは少しだけ酸っぱい蜜柑が、青い蜜柑が好きだったな』
語尾が揺れる。
会いたい
会いたい
会いたい
抱きしめて口づけて、
会いたかったと何度も言いたい。
千切れてしまうような想いが、涙となって零れた。アイラ、まだ待つのか?苦しいよ、会いたいよ、切ないよ。もう待つのはいやだ。
百まで生きるって、言っていたじいちゃんも逝ってしまって、独りになっちゃったよ。誰もいない。俺には君しかいない。助けてくれ、アイラ。
『アイラ、会いたいよ』
ただ泣いた。大声で泣いても誰も聴いていない。心配もされないから心置きなく泣ける。遠慮せず、子供に還ってしまったかのように、俺は声をからして泣き続けた。
そんな時だった。子供の声がした。
『九条さんのお家はここですか?』
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