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人魚との交わり《9─2》
しおりを挟むアイラはそういうと、脱力し、軽く悦楽に弛緩した顔で微笑みながら、ポロポロと涙をこぼした。
「僕のこと、忘れないで。君が誰かを愛しても、僕との思い出も、忘れないで」
「忘れられないよ、アイラ、アイラ………お前以外、俺は要らない。誰も愛そうとは思わない」
俺は意を決して訊いた。
「もう会えないのか?」
アイラは俺をギュッと抱きしめて、
「これが、僕の答え、忘れない」
──────────
君を忘れない。
まだ朝になれてない有明の月。君を好きになって良かった。
赤銅色と思われた月は金色。波打ち際、君は海に入る。すると君はたちまち人魚の姿を取り戻す。あまりにも美しい、海の神様に愛された姿になる。
「この子が、一人立ちしたら戻ってくる。その頃、君はおじいさんかな。誰かを愛して、幸せに。君の幸せは僕の幸せ。元気で。愛していたよ。君が、好きだったよ。いつか、いつか帰ってくるから」
波間に消えて姿を消した君。
金色の月だけが俺を見ていた。好きだったよ。こんなに誰かを好きになることは、もうこれから二度とないだろうと思う。一生の一度の恋で良い。
人魚との契りは暫く力が入らない程の快楽だった。耳からはなれない言葉の数々。泣かないでいようと心に決めていた。
もう会えない訳じゃない。
これが最後じゃない。
そう考えないと、不安で身体が押し潰されてしまう。けれど、つらいものはつらい。涙がとまらない。
──────────
朝、学校に行ったらおかしなことになっていた。皆の記憶からアイラが消えていた。アイラを覚えていたのは俺とじいちゃんだけ。
『ショウが作る梅干しおにぎりが一番美味しい』
「旨くねえよ、こんなもん!」
泣きながら弁当用につい作ってしまったもう一つのアルミホイル。
『しなしなの、海苔。美味しい』
おにぎりを台所で頬張った。アイラを思い出す時は涙がついて回る。
『ショウと縁側で蜜柑ジュース飲んでいる時間が好きだった』
「俺の中の一番幸せな時間だったよ、アイラ」
寂しくて、死んでしまいそうだよ。君が恋しい、アイラ。夢の時間のようだった。夢だったのか疑うときもあるよ。そう思うと真珠のネックレスが揺れる。
『いつか会おう』なんて言わないで、アイラ、『いつか』は『いつ』なんだ?会いたくて、会いたくて、涙がとまらない。
アイラ、やっぱり君は人魚だ
俺の気持ちを海に持っていってしまった。君が好きだった。このあまりに辛くてぽっかり心に開いた空洞には、君がいた。君と俺との想い出が詰まっていた。
『愛してる』なんて大仰で使いたくなかったけど、こんな高校生のガキが使う言葉じゃないかもしれないけど、俺は確かに君を愛してる。
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