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海を捨てた人魚《5─1》
しおりを挟む潮の香りがする帰り道、俺は言った。
「俺さ、じいちゃんと二人暮らしなんだ。この村にさ、昔高潮があってさ、運良く助かって、人魚が助けてくれたんだって話があった。でも……何でかなあ、ねじくれて話が伝わって人魚が高潮を連れてきたって。それ以来、人魚は禍々しいものだって言われて……人魚狩りが始まったって。それ以来、じいちゃんは海と離れて、代々継ぐのを嫌がってた焼物の窯を継いで16代目の『酔月』を名乗った。『わしには海は不相応だった』って。『わし達があの綺麗な者たちを殺してしまったって。村がおかしくなるのをとめられなかった』……ってさ」
家は畑をやってるよ。自給自足だね。蜜柑も作って、蜜柑のお菓子とか売ってる。
歩きながら、俺は話し続けた。話の選択を間違えたかと、後悔した。
「じいちゃん、帰ったよ。蜜柑ジュースちょうだい。こちら今日から家でホームステイするクラスメイト」
アイラは畑仕事をするじいちゃんに歩みより、
「こんにちは」
と笑いかけた。じいちゃんは、右手のスコップを落とし、アイラの肩を掴んだ。
「レイラさん?レイラさんなのか?憶えてないのか?私だ、リュウだ。忘れたことはない。迎えに来てくれたのか?やっと、レイラ……」
俺はじいちゃんのここまで取り乱した姿を初めて見た。
「レイラは、僕の母です。僕はレイラの息子のアイラです。正体は、語らずも、解ってしまいましたよね。僕は人魚です。秘密にして下さい」
「命の恩人の方の息子さんだ。力の限りお守りします」
そう言って、『ショウ、なんかうめえもの作れ』とじいちゃんは言った。
「おなかすいたろ、アイラ。おやつは梅干しおにぎりな。良く手を洗って、と」
俺は良く手を洗い、三角の小振りの梅干しおにぎりを二個作った。行儀が悪いが、台所でつまみ食いをするように立ち食いでおにぎりを食べた。
「すっぱ。すっぱ。口がとれちゃう。ショウ。助けて」
アイラの紅い口唇を見つめる。邪な気持ちになる。
「ご飯を食べてみて。どう?」
アイラは微笑む。
「うん、甘い。ご飯が甘い。美味しい。ショウのにぎるおにぎりが一番美味しい」
しばらく、雑談、二階で宿題を済ます。毎日この繰り返し。でも、飽きない。アイラは品行方正、成績優秀の優等生だ。帰ってきて必ず俺はアイラに梅干しおにぎりを作る。
ある日、夕御飯の後、『散歩に行こう』と君は言った。じいちゃんは、俺を台所に呼び、『しっかり守るんだぞ』と言った。
君は何処か寂しそうだ。海が恋しいんだろうと思った。ちょうど満月が出ていた。
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