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人魚の悲しみ《4─2》
しおりを挟む放課後、君に校舎内を案内した。いつもアイラはニコニコしている。クラスも、教師も評判が良い。食べ物についてはヴィーガンと言っていて、それすら羨望の目を集めていた。
屋上について二人きりになる。アイラの顔はガラリと変わる。鋭い目付きは、綺麗な顔を伴うと、怖い。
「アイラ。どうしたんだよ。本当に俺の事憶えてないのか?ずっと、好きだったんだ。ずっと」
アイラは下を向き嗤った。
「……僕はニンゲンに殺されそうになって、身体中傷だらけ。仲間からは、ニンゲンと関わっているからだって、仲間外れ。誰も話してくれる仲間はいなくなった。そして、君は僕を忘れていった。毎日が、一週間、満月………もう来てくれない、忘れられたんじゃないか不安だった。でも、本当に僕は忘れられてたんだから。笑っちゃうよね。君は女の子を連れて楽しそうに堤防を歩っていた。きっと、もう僕は君にとっては過去なんだろうね。僕にとっては君だけだった。ずっと君が好きだったよ。でも、君は他の誰かがいる。僕に気持ちなんかない!簡単に『好きだ』何て言わないでよ!嘘つき!」
君の涙は初夏のコンクリートに吸い込まれて消えていく。
「ずっと待ってた。僕には待つしか出来ない。ずっと好きだったから今は君が憎いよ。僕を忘れて、思い出も、約束も、忘れて………本当に、ずっと好きだったんだ。だけど、もうやめる。君を好きでいること、やめる!」
ポタポタとコンクリートに、黒い染みができていく。アイラの握りしめられた白い手が振るえていた。
「……君が僕にあるのは淡い恋とも呼べない『憧憬』だよ。僕が手を離せば君は自由になれるんでしょう?君はもう、僕に想いはないから」
さよなら、ショウ。君は僕の初恋だった。初めて好きになった人だった──君の握った梅干しおにぎり、食べたかったな。アイラは泣きながら微笑んで階段を降りていった。
『蜜柑は、ショウが剥いて。ショウの剥いた蜜柑が一番美味しい』
『ショウ、君が好きだよ』
『ショウ、僕の世界は、君で出来てる』
追いかければ、間に合う。階段を駆け降り、アイラの片手を引き寄せ抱きしめる。不幸中の幸いか、階段、廊下には誰もいなかった。
「アイラに会えなくてつらかった。真珠が綺麗なのが、余計に切なくて。アイラ、女の子と歩いてた理由は後から家で話すよ」
抱きしめた腕から伝わる温度。触れられる、温かい。それだけでいい。
「帰ろう?守るから。俺ん家に行こう。アイラが傷ついた姿はつらかった。………それと、おやつは梅干しおにぎりにしよう」
「君のお家に行けるの?」
「ホームステイの引き受け先は委員長宅っていうのがならわし。ホント委員長やってて良かった」
「ねえ、ショウ」
「ん?」
「君が、梅干しおにぎり、握って」
アイラの言葉に、泣きそうになった。君も、あの約束を憶えていてくれたこと。
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