セイレーン─海を捨てるくらいの恋─(番外編追加しました)

カシューナッツ

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人魚との出会い《1─1》

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『君は、僕に石を投げないんだね』

 俺に怒鳴られ、睨まれただけで、部活仲間は俺を波打ち際に残して走り去った。

 傷だらけの、人間ではない、この海に住む、あまりに美しい生き物は、俺を冷たく、軽蔑の瞳で見つめた。

────────

 満月、しかも蒼い月の夜は明るい。灯りなんて必要はない。だから長引いた陸上の部活帰り、俺と部活仲間は、普段大人達に夜になったら近づくなと言われている海際の波打ち際を帰った。

 そこで、君は悠々と碧い海を泳いでいた。月の光を跳ね返す、七色に光る尾びれ。金色の髪。碧い瞳。蒼い月と戯れるように泳ぐ君は美しかった。まるでお伽噺のように。

 俺は君と目が合った。君は笑って俺たちに近づき、何かを話しかけたけれど、波の音に遮られて聴こえなかった。皆は君を見て顔色を変え、口々に

「化物だ!」

「あっち行け!」

 
 そう君に言いながら、石を投げた。痛みをこらえながら石から顔を庇い君は耐えていた。綺麗な声で、

『やめてよう』

『痛いよう』
 
 と泣いていた。

「やめろよ!怯えてるだろ!可哀想じゃんか!」

 
 俺は初めて見た君の悲しい顔があまりにもつらかった。

「な、なんだよ。お前化物の味方かっ!」

「とにかく、やめろって!」

「ちぇ、つまんねぇ。ショウは優等生だからな、結局」

 
 部活仲間が遠ざかるまで、俺と君は終始無言だった。

『君は、僕に石を投げないんだね』

「手当てするから、そっちへ行く。あのさ、君は人魚なの?」

『だったら殺すの?魔物だって、人を惑わして海に誘って人を喰うって』

 泣きながら、俺を嘲笑しながら睨む君は痛々しくって、でも怯えて振るえていた。

 多分たくさんの人魚がそう言われ、人に殺されてきたんだろうと思った。俺は努めて綺麗な人魚に優しく訊いた。

「あの……君の名前を教えて?」
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