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〖第10話〗
しおりを挟む私は哀しく笑いました。こんな皺々のおばあちゃんの姿で、私が誰か解らない程衰えた容姿。夢のような世界の中、貴方には会いたくなかったからです。
貴方はうら若き夭逝の青年。私のこの身体の感覚、影の大きさ。女王でもありません。若さも、美しさもありません。ただの年甲斐もなくドレスを着た醜い、不思議に変化したニンゲンの老婆です。夢なら速く覚めて欲しかった。
シロウの言葉に泣きたくなります。そこまで私にこだわるなら、どうして知らないふりをしてくれないのでしょうか。今の私がマーガレットだと貴方には知られたくない。見られたくない。どうして解ってくれないのでしょうか。一抹の女心も貴方は汲み取ってはくれない。
風が吹いて青空の中の白い花畑に向かい合います。もう、時間切れです。これ以上、シロウに何も言わないわけにはいきません。私は心の中を正直に伝えました。
『もう私には何もありません。女王でもありませんし、瑞々しい若さも、口々に讃えられた美しさもありません。ただ、こんな老婆と化しても、ある方を好きだという気もちが消えないのです。ですが、その方には知らないふりをして欲しかった。あまりにもその方と不釣り合いな私の容姿に、年甲斐もないあさましい想いに、周りは指を指して笑うでしょう?私はあまりにも惨めです』
『僕も皺々のおじいさんだよ。それでも君を忘れられない。君は僕を笑うかい?』
『え…………?』
太陽に雲がかかります。陽が翳り、雲はシロウを逆光から普段の視野に連れ戻させました。目の前にいるのは、痩身の老人です。
『最後に見た君は、手紙を携えた可愛らしいおばあちゃんの姿だった。君の手紙が嬉しくて、君の言葉が嬉しくて、ずっと会いたいと願った。マーガレット、良く聴いて。君があさましいなら、僕はどうする?女々しくて、愛したひとの心を傷つけた。君を、君の仲間を守れなかった……。たくさんのことを悔いた、年老いた、ただの男だよ。今まで待った。この瞬間をずっと待ったんだ。独り、誰もいない果てなく続く美しいこの花畑で、ずっと君を待ち続けた。陽は沈まない、ずっと昼のままのこの花畑で、独り年を取りいつの間にか気づいたらこの姿だ。この花の箱庭に閉じ込められて、誰もいない、流れない時の中で、ずっと、君だけを待ち続けたんだよ。ただ、君と同じ名前のこの花たちに願いを託して』
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