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〖第9話〗
しおりを挟むそれから、二年後のことです。私もすっかりおばあちゃんです。身体が重く分が塞いでベッドに寝たり起きたりを繰り返しました。
『女王陛下、落ち着いて聴いてください』
親衛隊長のローズが言いました。
『知ってるわ。シロウが亡くなったんでしょう?』
『会いに、行かないと………!後悔なさります!』
『少し前にね、眠るシロウの元に手紙を残してきたの。すべて託してきたわ。すべてね。マーガレットの花言葉も、記してきた。レイピアも磨き直して返してきたの。シロウが淋しくないように』
『そんな、あれほどあのレイピアを大切にしていたではありませんか!錆びる度に手入れをして……!』
ローズは、正直でやさしい最古参の働き蜂です。
『私が持っていたら、ずっとシロウに執着する。あのひと亡き後、こんなおばあちゃんでも、シロウが恋しい……《マーガレット》と呼ぶ声が聞きたいなんて、年甲斐もなく、今でも思ってしまうのに』
『お互いに陛下も私も年を重ねましたね。陛下の名前の花言葉は何ですか?伝えたかった言葉は伝えてこれたのですか?』
潤んだ声でローズは早口で私に問いました。
『伝えたい言葉は伝えたつもり。お前達には世話をかけましたね。特にローズには、面倒ばかりかけました。貴女もすっかりおばあちゃんになって……。新しい女王を頼みましたよ』
小さくそう言うと、ローズの瞳から大粒の涙が溢れました。『陛下』とポロポロ大きな瞳から涙をこぼしました。
『それと、マーガレットの花言葉は、シロウにはちゃんと伝えてきましたよ。これだけは秘密なの。ごめんね』
***
あの日々から、どれくらい経ったでしょうか。意識が遠のいて眠るような感覚に陥りました。光が見えました。あるのは、私が作った秘密の花畑。少しづつ作った一面のマーガレットの花畑です。ああ、遠くで誰かが呼んでいます。行かなければなりません。
『待って。このドレスは走りづらいの。靴がドレスを踏んじゃうわ』
呼んでいる方は男のひと。ニンゲンのようです。逆光で姿が見えません。聞き慣れた穏やかな声が耳に心地よい音に感じられます。
『ゆっくりでいいよ。ずっと君を待ってた。君があの箱庭を去ったあと、記憶の中の君を探して拙い絵を描いた。僕の人生は、ほとんどが君で出来てる。君の残した花言葉が《心に秘めた愛》だって知った瞬間、嬉しかった。本当に、嬉しかったんだ、マーガレット。君がマーガレットだろう?違うかい?』
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