箱庭のマーガレット〖完結〗

カシューナッツ

文字の大きさ
上 下
8 / 11

〖第8話〗

しおりを挟む

 私は涙が止まらなくなっていました。そっとシロウの部屋の窓から部屋に入り泣きながら謝りたかったですが、もう、時は経ちすぎました。私はシロウが会いたかった、あの輝きを持つ私ではない。

 もう、こんなおばあさん。

 きっと、シロウはがっかりします。私は箱庭のマーガレットの花を摘み、大事にしていたビーズで飾られたまち針のレイピアで刺し、


『私の気持ちです。さようなら。ずっとあなたを──。     マーガレット』


 ずっとあなたを──愛してた。そう記し手紙を残すつもりだった。でも記せなかった。ペンを走らせる私は自分の皺々の手を見て自嘲します。こんな私をシロウはどう思う?

 思い出は綺麗なままでいい。私はどうせ女王と言っても、所詮私は小さな蜜蜂です。シロウと身分も何もかも釣り合う相手ではなかったのです。

 この世で、結ばれる運命ではなかった。

 せめてもの願いの親友として共にいることも敵わなかった。レイピアとマーガレットの花を抱え、下を向いて自嘲しました。

 暗闇の中なら、いくら泣いても解らない。自分自身のシロウの想いに気づいてから弱くなった私は泣いてばかり。誰にも気づかれなければいい。

 私の思い込みのせいで、貴方を孤独にしました。『許して』と繰り返した貴方、『謝るから』と言った貴方の身体は、傷ついてボロボロだったのに。

『ごめ……ん………なさい………』

 私は涙でみっともなく顔を濡らし、声を殺して、シロウの部屋を逃げるようにあとにしました。親衛隊長のローズは私に気づいたらしく、私を追いかけてきました。今日の一連のことを話すと、

『悋気ですか。女王陛下』

『り、悋気!?』

『陛下は仲良さげに話す私とシロウを見て焼きもちを焼いたのですよ《心の奥が引っ掛かれたように痛痒かった》のはそういうことです。良かった、まだ若い証拠ですわ。そして、シロウを深く、想っていらっしゃるのですね……。それと、お聞きしたいことが。陛下の名前の花言葉は何ですか?シロウには伝えたのですか?』

『いつか、いつか話すわ。ローズ、ありがとう』
 
 ローズは、嬉しそうに笑い、羽根を羽ばたかせ、旋回しました。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

死が二人を別こうとも。

すずなり。
恋愛
同じクラスに気になる女の子がいる。かわいくて・・・賢くて・・・みんなの人気者だ。『誰があいつと付き合うんだろうな』・・・そんな話が男どもの間でされてる中、俺は・・・彼女の秘密を知ってしまう。 秋臣「・・・好きだ!」 りら「!!・・・ごめんね。」 一度は断られた交際の申し込み。諦めれない俺に、彼女は秘密を打ち明けてくれた。 秋臣「それでもいい。俺は・・・俺の命が終わるまで好きでいる。」 ※お話の内容は全て想像の世界です。現実世界とは何の関係もございません。 ※コメントや感想は受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※誤字脱字や表現不足などは日々訂正していきますのでどうかご容赦ください。(目が悪いので見えてない部分も多いのです・・・すみません。) ※ただただこの世界を楽しんでいただけたら幸いです。   すずなり。

元妻

Rollman
恋愛
元妻との画像が見つかり、そして元妻とまた出会うことに。

闘う二人の新婚初夜

宵の月
恋愛
   完結投稿。両片思いの拗らせ夫婦が、無意味に内なる己と闘うお話です。  メインサイトで短編形式で投稿していた作品を、リクエスト分も含めて前編・後編で投稿いたします。

片想いの相手と二人、深夜、狭い部屋。何も起きないはずはなく

おりの まるる
恋愛
ユディットは片想いしている室長が、再婚すると言う噂を聞いて、情緒不安定な日々を過ごしていた。 そんなある日、怖い噂話が尽きない古い教会を改装して使っている書庫で、仕事を終えるとすっかり夜になっていた。 夕方からの大雨で研究棟へ帰れなくなり、途方に暮れていた。 そんな彼女を室長が迎えに来てくれたのだが、トラブルに見舞われ、二人っきりで夜を過ごすことになる。 全4話です。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

12年目の恋物語

真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。 だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。 すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。 2人が結ばれるまでの物語。 第一部「12年目の恋物語」完結 第二部「13年目のやさしい願い」完結 第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中 ※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。

続・上司に恋していいですか?

茜色
恋愛
営業課長、成瀬省吾(なるせ しょうご)が部下の椎名澪(しいな みお)と恋人同士になって早や半年。 会社ではコンビを組んで仕事に励み、休日はふたりきりで甘いひとときを過ごす。そんな充実した日々を送っているのだが、近ごろ澪の様子が少しおかしい。何も話そうとしない恋人の様子が気にかかる省吾だったが、そんな彼にも仕事上で大きな転機が訪れようとしていて・・・。 ☆『上司に恋していいですか?』の続編です。全6話です。前作ラストから半年後を描いた後日談となります。今回は男性側、省吾の視点となっています。 「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しています。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...