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〖第5話〗
しおりを挟む此処は都会のマンションの屋上。不思議に緑が溢れている、まるで森のようなニンゲンの庭で暮らしています。分蜂して行き着いた先が此処だったのです。不満はありません。陽当たりは良いし、静かです。ひとも、来ません。此処はシロウと私、そして小さな蜂の巣がある楽園です。
でも、不思議なものです。この都会のスモッグのせいでしょうか。働き蜂の皆が口々に言います。
『この庭に降り立つと、小さなニンゲンになってしまうのです。しかも、皆一律、ふわふわな白いフリルのエプロン。服は長袖フレアのロングスカートのワンピース。ワンピースはクリーム色に近い淡い黄色です』
クリーム色のワンピース。蜜蜂の気品を表しているかのようです。白のエプロンに、食べこぼしの花の花粉がついてる若い娘もいます。それはご愛嬌。まあ、この庭を出れば皆、元の蜂の姿に戻れます。
***
そんなときでした。いつもの穏やかな青空の午後。
『女………王さ、ま。お逃、げ………に』
一匹の白いエプロン姿の、可愛らしい若い働き蜂が、息も絶え絶え、私の所へやって来ました。私が『大丈夫だから、しっかりなさい』と言っても、苦し気に息をするだけで、いつしか、か弱い呼吸も止まり、もう、その娘は何も答えてはくれませんでした。たくさんのことを考えました。こうなった理由です。
スズメバチの襲来?
農薬?
違う──駆除だ!私は大声で叫びました。私は風上にいたから気づけなかったのです!
『みんな!ここから逃げて!』
駆除しているニンゲンに、まち針のレイピアを刺したかった。でも、そうしたらこのニンゲンと同じことをしていることになってしまいます。それにあの特殊な服にはレイピアは刺さらないだろうと思いました。
『やめて、私達はニンゲンを攻撃したりしたことはないわ。ここから出ていくわ、出ていくから!だから、もうやめてよお!これ以上仲間を殺さないで!』
大声で叫んで、喉が枯れました。泣きすぎて瞳が痛い。辺りは夥しい、働き蜂の屍が散らばっていきます。
薬の散布で、痙攣してからの死。何故こんな、酷い死にかたをしなければならないのでしょうか。私達は誰にも迷惑なんかかけていません。
怒りと、哀しみ、そして心を占めたのは虚しさでした。シロウは、何もしてくれませんでした。助けてくれなかったのです。カーテンの陰から怯えながら見ていただけでした。
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