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〖第3話〗
しおりを挟む『逆らってまで、することがなくなっちゃった』
とシロウは言っていました。そして、シロウはまた笑って続けます。
『まずあのひと達に逆らうのも億劫だけど。………本当は解っているんだ、自分の意見を考えて、話して母さんや父さんに言葉を伝えて意見を通さなければいけないって。でも、もう何もしたくないし、何がしたいか解らない。疲れちゃったんだ。ずっとこのままがいい。君とお喋りをして、草花のお話を聞くのが。スズメバチとの戦いの話は、君や働き蜂の皆を思ってドキドキした。薬を飲まなきゃならなくなるくらい』
とシロウは笑います。
『ずっとこのままでいられたらいい。君と可愛い働き蜂のみんなと。たまに来る発作も我慢するよ。だから、今のままがいい』
そう言って、シロウは声を潤ませました。
***
ある日、私は偶々、彼は二十歳まで生きられないと母親とホームドクターの話を小耳に挟みました。
シロウがお手洗いにたっているときで良かったと思いました。彼に聴かせたくなかったのです。この箱庭のように限られた空間で、少しの植物と、私を話し相手に一生を終えるだなんて。
『貴方は幸せになるひとよ。ならなきゃ駄目よ』
私が声を震わせてそう言うと、シロウは言いました。やはり笑いました。けれど、みるみる私を見つめる瞳に涙をためていきます。
『知ってしまったんだね。余計な気を遣わせたくなかったんだ。君には知られたくなかった。タイム・リミットがあるなんて。黙っていてごめんよ』
初めて、シロウは私の前で涙を流しました。そして、泣きながら言いました。
『生まれ変わったら、君と一緒に暮らしたい。幸せになりたい。君といるときだけが僕は幸せなんだ』
***
図鑑をパタリと閉め、
『妖精さん、そんなことより、これ。プレゼント』
格好いいでしょ。そう言いシロウが差し出したのは、まち針を使って作ったレイピアです。
『ありがとう、シロウ。この装飾はビーズとスパンコールかしら。綺麗……。でも、私は妖精じゃないわ。蜜蜂の女王よ』
『うん、解ってる。蜜蜂の女王は針がないって調べた。だから、針の代わりに使って』
シロウは何か特別なことがあるとき、感情を隠そうとするとき、私のことを《妖精さん》とわざと呼びます。もらったレイピアを腰に佩き、私はポーズをとります。
『綺麗だ。気品があるね。さすが蜜蜂の女王だ』
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