箱庭のマーガレット〖完結〗

カシューナッツ

文字の大きさ
上 下
3 / 11

〖第3話〗

しおりを挟む

『逆らってまで、することがなくなっちゃった』

 とシロウは言っていました。そして、シロウはまた笑って続けます。

『まずあのひと達に逆らうのも億劫だけど。………本当は解っているんだ、自分の意見を考えて、話して母さんや父さんに言葉を伝えて意見を通さなければいけないって。でも、もう何もしたくないし、何がしたいか解らない。疲れちゃったんだ。ずっとこのままがいい。君とお喋りをして、草花のお話を聞くのが。スズメバチとの戦いの話は、君や働き蜂の皆を思ってドキドキした。薬を飲まなきゃならなくなるくらい』

 とシロウは笑います。

『ずっとこのままでいられたらいい。君と可愛い働き蜂のみんなと。たまに来る発作も我慢するよ。だから、今のままがいい』

 そう言って、シロウは声を潤ませました。

***

 ある日、私は偶々、彼は二十歳まで生きられないと母親とホームドクターの話を小耳に挟みました。

 シロウがお手洗いにたっているときで良かったと思いました。彼に聴かせたくなかったのです。この箱庭のように限られた空間で、少しの植物と、私を話し相手に一生を終えるだなんて。

『貴方は幸せになるひとよ。ならなきゃ駄目よ』

  私が声を震わせてそう言うと、シロウは言いました。やはり笑いました。けれど、みるみる私を見つめる瞳に涙をためていきます。

『知ってしまったんだね。余計な気を遣わせたくなかったんだ。君には知られたくなかった。タイム・リミットがあるなんて。黙っていてごめんよ』

 初めて、シロウは私の前で涙を流しました。そして、泣きながら言いました。

『生まれ変わったら、君と一緒に暮らしたい。幸せになりたい。君といるときだけが僕は幸せなんだ』

***

 図鑑をパタリと閉め、

『妖精さん、そんなことより、これ。プレゼント』
 
 格好いいでしょ。そう言いシロウが差し出したのは、まち針を使って作ったレイピアです。

『ありがとう、シロウ。この装飾はビーズとスパンコールかしら。綺麗……。でも、私は妖精じゃないわ。蜜蜂の女王よ』

『うん、解ってる。蜜蜂の女王は針がないって調べた。だから、針の代わりに使って』

 シロウは何か特別なことがあるとき、感情を隠そうとするとき、私のことを《妖精さん》とわざと呼びます。もらったレイピアを腰に佩き、私はポーズをとります。

『綺麗だ。気品があるね。さすが蜜蜂の女王だ』
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

死が二人を別こうとも。

すずなり。
恋愛
同じクラスに気になる女の子がいる。かわいくて・・・賢くて・・・みんなの人気者だ。『誰があいつと付き合うんだろうな』・・・そんな話が男どもの間でされてる中、俺は・・・彼女の秘密を知ってしまう。 秋臣「・・・好きだ!」 りら「!!・・・ごめんね。」 一度は断られた交際の申し込み。諦めれない俺に、彼女は秘密を打ち明けてくれた。 秋臣「それでもいい。俺は・・・俺の命が終わるまで好きでいる。」 ※お話の内容は全て想像の世界です。現実世界とは何の関係もございません。 ※コメントや感想は受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※誤字脱字や表現不足などは日々訂正していきますのでどうかご容赦ください。(目が悪いので見えてない部分も多いのです・・・すみません。) ※ただただこの世界を楽しんでいただけたら幸いです。   すずなり。

闘う二人の新婚初夜

宵の月
恋愛
   完結投稿。両片思いの拗らせ夫婦が、無意味に内なる己と闘うお話です。  メインサイトで短編形式で投稿していた作品を、リクエスト分も含めて前編・後編で投稿いたします。

12年目の恋物語

真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。 だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。 すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。 2人が結ばれるまでの物語。 第一部「12年目の恋物語」完結 第二部「13年目のやさしい願い」完結 第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中 ※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。

続・上司に恋していいですか?

茜色
恋愛
営業課長、成瀬省吾(なるせ しょうご)が部下の椎名澪(しいな みお)と恋人同士になって早や半年。 会社ではコンビを組んで仕事に励み、休日はふたりきりで甘いひとときを過ごす。そんな充実した日々を送っているのだが、近ごろ澪の様子が少しおかしい。何も話そうとしない恋人の様子が気にかかる省吾だったが、そんな彼にも仕事上で大きな転機が訪れようとしていて・・・。 ☆『上司に恋していいですか?』の続編です。全6話です。前作ラストから半年後を描いた後日談となります。今回は男性側、省吾の視点となっています。 「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

元妻

Rollman
恋愛
元妻との画像が見つかり、そして元妻とまた出会うことに。

そんな目で見ないで。

春密まつり
恋愛
職場の廊下で呼び止められ、無口な後輩の司に告白をされた真子。 勢いのまま承諾するが、口数の少ない彼との距離がなかなか縮まらない。 そのくせ、キスをする時は情熱的だった。 司の知らない一面を知ることによって惹かれ始め、身体を重ねるが、司の熱のこもった視線に真子は混乱し、怖くなった。 それから身体を重ねることを拒否し続けるが――。 ▼2019年2月発行のオリジナルTL小説のWEB再録です。 ▼全8話の短編連載 ▼Rシーンが含まれる話には「*」マークをつけています。

幼馴染以上恋人未満 〜お試し交際始めてみました〜

鳴宮鶉子
恋愛
婚約破棄され傷心してる理愛の前に現れたハイスペックな幼馴染。『俺とお試し交際してみないか?』

処理中です...