箱庭のマーガレット〖完結〗

〖第２話〗

　彼は身体が弱く『コキュウキ』と『ジュンカンキ』所謂『ハイ』『シンゾウ』と言う部位の病気で、友達のニンゲンと遊べません。いえ、友達がいません。昔はいたのですが、

『今はもう忘れられちゃったよ。皆忙しいし、それに此処に来るより愉しいことがあるから、仕方ないよ』

　そう言いシロウは笑います。私はシロウに泣いて欲しいと思いました。こんなときにまで笑うシロウが哀しくて、見ている私には切ないものがあるのです。シロウは走ったり、怒りなど強い感情をためたり出来ません。

　両親は彼の病気にかかるお金のことで喧嘩ばかりしていました。私が隣の部屋から聞こえてくる彼の両親のあまりの怒声に最初、腹がたちましたが、あまりの剣幕に怯えていると、シロウは困った顔をして、

『もう、いいんだ。慣れたよ。こっちへおいで』

　そう私に言い手のひらにのせました。彼はそう言いながらも瞳を覗くと《悲しい》《つらい》と言っていました。けれど彼は希望は持ちません。昔から、彼の母親に言われるそうです。

『シロウちゃんは病気なんだから駄目』

　何かにつけて新しいことを始めたいとき、第一声、シロウは母親にそう言われていました。私は絵を習ったり、楽器を習ったりすることはいいことだと思うのですが、彼の母親は彼の興味を、生きる原動力を次々に踏み潰していきます。

　当の彼の両親は着飾って毎日のように彼をおいて出かけて行ってしまいます。シロウ曰く、『セレブガアツマルパーティー』というものらしいです。救急にホームドクターが必要な発作が起きたとき、ドクターが家に来る呼び出しのボタンを渡し、彼の母は、豪奢な毛皮と宝石に身を包み着飾り、暫くして、遅れて身支度を整えるために帰った父と連れ立って、何も躊躇いもなくパーティーに出かけてしまいます。