塔の上の王子さま〖完結〗

華周夏

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〖第2話〗

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 優しい美しい王子さま。

 本当は楽しいお話相手になりたかった。ですが私は容姿だけではなく声も、聴く人は皆嫌がるような声なのです。

    私が力無くうなだれると、何も言わず、王子さまは私の背を撫でて下さいました。

 ある日のことです。

「お前は私の鏡のようだね。いじめられたりしていないかい?ああ……傷が…。可哀想に」

    近所の子供に、石を投げられてついた傷でした。

「痛い、痛い」

    その泣き声ですら、彼等にとっては穢い声なのです。王子さまは袖の布を破り、傷に巻き、手当てして下さいました。

「どうして……ここまでつらい思いをしなければならないのだろう。君は何も悪くないのに」

    私の傷を撫でながら涙を流して王子さまが言ったとき、私はただただ泣きました。
とても切なくて苦しくてたまらなくなりました。けれど何処か私ごときに王子さまが泣いてくれる事実が不敬罪にあたるようなことですが嬉しかった。

 王子さまの特別に、一瞬ですがなれた気がしました。皆に、こんなことを言ったら嘲笑されることでしょう。だから、こんなことを思ってしまった罪悪感とともに、胸にしまっておくのです。
    
 私は、王子さまに笑って欲しい。いつものような悲しいお顔ではなく、満面の笑みで笑って欲しい。そんな日が一日も早く来ますように。毎日、私が月の神様にお願いすることです。
    
 けれど私は王子さまの涙を見て不謹慎にも思ってしまったのです。どうか私に笑いかけて欲しい。美しい笑顔は私だけに。その涙も私だけに。そんなものは、お伽噺です。

    私はこの感情に名前をつけたくない。私ごときがおこがましいものだと解っているからです。

 王子さまは寒い冬を乗り切りました。私を懐に入れて下さり、私を抱きしめ夜を越しました。

「お前は温かいね。背を撫でられるのが好きかい?」

    私は頷きました。その夜からずっと王子さまは私を懐に抱いて下さいました。そして、よく背を撫でてくださいました。優しい甘い匂い。王子さまの匂い。私はそれだけで幸せでした。
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