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〖第1話〗
しおりを挟む『ほら。お食べ。私はもう、いいんだ』
王子さまは唯一の訪問者の私のために、いつも粗末な食事を隠して残します。一度私が喜んでしまったものですから、必ず毎日のようにタカタカの実もくれます。
タカタカの実は甘くて安価で美味しい、この国での伝統的なフルーツです。王子さまは、食事をほとんど食べません。もう要らないと言うように、私に「お食べ」と言います。私が首を振ると、
「私には必要ないんだ」
「もう、疲れてしまった。喜んで食べてもらえるなら作った者も本望だろう」
と、哀しいことを寂しげに笑いながら言います。食べないと痩せてしまうと、これ以上栄養を摂らないと死んでしまうと私は泣きます。
「こんな私のために泣かなくてもいいんだよ。私の瞳と髪が黒いのは、治しようがないんだ。魔女の呪いと聞いた。この世に未練はないよ。ただ一度で良いから、『恋』をしたかった。苦しくて、たまらなく甘美で、切ない、そう本で読んだ」
私はじっと王子さまを見つめます。造作の整った顔。宵闇を思わせる吸い込まれそうな黒い瞳。艶々の漆黒の髪。こんなに美しいのに、何故他の人々は王子さまを苦々しく思うのでしょう。銀色の髪が、碧い瞳がそんなに偉いのでしょうか。
そう腹が立ちますが、この国では、そうなのです。難しく言ったら『曲げられない絶対の倫理』とでも言えば良いのでしょうか。
王子さまは私を見ると寂しそうに笑います。いつも。「お前も私と同じだね」と。何故か、悲しそうに。私を見るのがつらいのだと思うときがあります。
私も……こんな容姿です。皆に忌み嫌われるものです。最初王子さまに姿を見られるのも恥ずかしかったものです。けれど、王子さまは優しい声音で私を呼びとめ、
「私と話をしてくれないか?答えたくなければ…答えなくて良いから」
そう王子さまは仰り、
「君は名前はあるのか?」
私は首を振りうなだれました。
「じゃあ、私から君に名前を。『ロイ』はどうかな?」
私は小さく王子さまにも聞こえないように「ロイ」と言いました。天にも昇る気持ちでした。
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