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〖第22話〗木常の見つめる先

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 勿論もちろん、木常もそうだった。昔はただ視線が気になった。悲しい瞳の見つめる先が、オレだと言うことは、カナエちゃんとオレと一緒に、楽しく会話できないことへのただの一抹の寂しさということだと思っていた。狐が見ているのは、カナエちゃんじゃなくて、オレだと、ずっと気づかないでいた。

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「カナエちゃんしか見えない、カナエちゃんに夢中なあなたにとって、私も見つめるだけの恋だった。見つめるしかできなかった。そして私の視線は騒音だった。だから、あなたのつらさは解るよ。つらかったね、田貫。『何で気づいてくれなかったの!』なんて怒ったりしないよ」
 
 木常はカナエちゃんの記憶を消した日から、心がぼんやり宙を漂ったままのようなオレを見かねたのか、毎日鈴蘭の花束をくれた。木常の本当の名は『鈴蘭』だった。

 オレは気力を失くし、ヒトになる力も失ってしまう始末だった。毎日小さな毛布をかぶせられ社務所の端にまるまるオレに添えられる鈴蘭の花束があった。
 
 木常の思いは雪を融かす春の陽射しのようだったとオレは思う。優しくて、暖かなで、決してオレを責めるようなことはしなかった。

 心に穴が空いて、カナエちゃんが棲んでいた俺の心は、がらんどうで、古傷みたいにカナエちゃんがいた痕跡が痛くて、寂しくて、恋しくて。オレは木常が、オレが木常への好意を解っていながら、その想いを返せるか解らないのに肩を借りて泣いた。オレは狡い奴だ。木常、ごめん。こんなオレを許してくれ。それでも木常は、そんなオレの心を読むように優しくしてくれて、オレはその優しさに甘えてしまう。
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