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〖第13話〗ファインダーと心の声
しおりを挟むカナエちゃんはカロリー補助食品や、お湯で少しふやかした柔らかいビスケットをくれた。汚い泥だらけのオレを抱きあげて、シャワーで洗ってくれた。
カナエちゃんがくれた食べ物で一気に体力は回復し、悪いと思いつつ、カナエちゃんからも気を少しだけもらって、神主さんからも逃げて仲間の家に行き、服を貰った。偶々あったカメラも。仲間に『記憶を切り取る機械です』と言われた。何だか、気に入った。使い方はすぐ覚えられた。
力を少しだけでも取ってしまったのが心配で、会いに行った。方便だった。ただ、もう一度会いたかった。相変わらずカナエちゃんはやさしくて「巫女サンや神社を撮りタイ」と言ったら「沢山撮影して下さい」と柔らかに笑った。使い方を覚えたカメラで、たくさんの記憶を切り取った。たくさんのカナエちゃんの表情を、仕草を忘れたくなくて、シャッターを切った。
笑って
照れて
恥ずかしそうにして
オレは、幸せだった。ファインダーの向こう側にカナエちゃんがいて、一緒に昼ご飯を食べて、小さな花束を喜んでくれた。
**********
「田貫さんのブーケはいつも綺麗だね。ありがとう。いつも、ありがとうね」
いつも通りカナエちゃんは笑った。確かに笑ってくれていたのに。木常に焦がれるカナエちゃんの今は、
『これ以上の親切は要らない。善意に対価を求めないで。あなたも解るでしょう?返せないし、今の距離を崩したくないのよ』
術を使った。心の声をきいた。悲しい声だった。つらそうだった。オレの気持ちがつらいんだと、解った。読心術は使わないつもりだった。
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