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〖第12話〗遠くから君をみるだけで良かったのに

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 オレの思いの丈の分だけ、カナエちゃんが幸せになりますように。つらいけど、オレの想いは、木常が現れる前から同じだった。オレはカナエちゃんの幸せを祈るだけしかできない。
 
 この想いが叶わないのは、解っているんだよ。最初から、全部。そして、終わりがある恋だって、カナエちゃんが誰かを好きになって、巫女さんのアルバイトを辞めたら、オレもここを去ろうって。

 最初は恩返しだった。いや、本心はもう一度遠まきに眺めるだけで良かった。なのに、欲が出た。『会いたい』『会って話をしたい』って。

 懐かしいな。好きなお花も、好きなおにぎりの具も憶えてる。小春日和の秋のことだったね。桔梗が咲いてた。確か、好きな花は金木犀って言っていたね。厚手の本に小さな星形の橙色の花を挟んで、

『カナエちゃん、カナエちゃんの好きな花』

 不思議そうにしながら花の匂いを嗅いだカナエちゃんは本当に嬉しそうにしてくれたね。

**********
 
 出会いは、車にはねられて、傷は妖力で回復したけれど、力の使いすぎとひどい衰弱で、ヒトのカタチになれず、神社のベンチの下で丸まっていた所をカナエちゃんに助けて貰った。

 誰も触れるのを躊躇うような汚いケモノ。今にも生命の灯火が消えそうな、ただの汚れた白い狸になってしまったときのこと。夜も更けていた。

「どうしたの?ああ……痩せてる。おいで。これ食べる?うん、いい子。いい子。ゆっくり食べて。ここの神主さん、鳥獣保護団体の人と仲良しなの。もう大丈夫だよ、連絡したから。私はまだ獣医の免許はあってもひよっ子だから………。明日見に来るからね。お腹空いてたのかな?おいしい?」
     
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